魔王城 転進
「フレデリカ様!数が多すぎます!一度撤退を!」
デスサイズさんの叫びがこだまする。
「シーフちゃん!こっちに!私の側から離れないで!ねぇガブリエル!この間の技で一網打尽にできないの⁉︎」
「無茶言わないでくださいフレデリカ。数が多すぎるんですよ。この獣ミックス集団。二、三百はいますよ。それに混戦状態じゃ味方にも当てる自信あります。それでも宜しければ心置きなく撃ちますが」
私の偽物をどうにかする為。かつて、住居にしていた通称『魔王城』に戻ってきたのだが……
まさか、こんなに手厚いお出迎えを受けるとは。
城の防衛部隊として、ありとあらゆる獣タイプが待ち構えていた。
高速で距離を詰めてくるリカント。
パワーで押してくるキラーベア。
空からはコンコルド。
他にもいるけど多すぎて識別できない。
それにしてもこの獣たち……
あきらかに私たちを敵と認識して襲ってきている。
あの偽物の私は、それほど知能の高くない獣までをも操れるというのか。
それよりも……
私はシルフちゃんを護りながら。
ガブリエルは空を。
デスサイズさんには遊撃として襲いくる獣を払い除けてもらっている。
でも、それも限界に来ている。
このまま戦っても無駄に命が消えていくだけだ。
「一度引きます!集合ー!」
意図を悟った二人が私の側に戻ってくる。
「あなたたちは邪魔です。魂砕き!」
巨大なデスサイズの持つ鎌が私たちの周りに綺麗な円を描く。
その美しい軌跡に巻き込まれた獣は次々にバタバタと地面に崩れ落ちていった。
「フレデリカ様。露払いはお任せを」
「助かるデスサイズさん!みんな!跳ぶよ!魔力フィールド展開!」
座標は隠れ家の海底洞窟。
これじゃあ『振り出しに戻る』だ。
まぁ跳躍先で敵集団に囲まれて、包囲されるよりはいい全然いい。
今回の件で学習した。
どうやらこの世界には、『敵』と認識しなくてはいけないものが一気に増えたっぽい。デスサイズさんの『魔王』や私の『元魔王』の肩書きは、効力を発揮しないどころか、ターゲットにされている。
こんな物量で来られては手加減も出来ない。
蒼の剣なら、もっといい案を出してくれるのだろうけど。
今は『逃げる』が一番の良策だ。
「みんな行くよ!跳躍!」