ヴァンパイア その1
「魔王一行を討ち取れば、お前等の一族は殺さずおいてやろう」
私の偽物に、脅され従わされている者たちがいる。
今、目の前にいるのは、ざっとだけど二百人ほどのヴァンパイア。
シルフの一族が滅ぼされたところを、偽物の私につけ込まれたらしい。
シルフの家系は、どうやら戦闘に優れていた一族でヴァンパイアという種族の中でも上位にあったみたいだ。
そこを滅ぼされたものだから種族全体が戦意喪失。
挙句に、私に与するシルフを裏切り者扱いし、亡き者にしようと狙ってくる始末。
ヴァンパイアといえば、プライドの塊みたいな種族だった気がするのだけど。
とはいえ、そのプライドを容易く粉々にする偽者も、なかなかの強者だ。
「シルフは下がって!ガブリエルはシルフを守ってあげて。デスサイズさん!この吸血鬼たち。息があるままダウンさせるけど。いいですよね?」
「どうぞ!フレデリカ様の思うがままに」
「了解!」
無限空間から一本の長棒を引き抜く。
『手心の棍・改』
これも名工『閃光』作品。
本来は、武術の先生とかが弟子に稽古をつける時に大怪我をさせない為の長棒だ。
少しの魔力を消費して攻撃の威力を落とすという、本気の戦闘には役に立たない。
どこの武器屋にもおいてある稽古用の武器だ。
それを更にパワーアップさせたのが『手心の棍・改』だ。
どんなに全力で殴っても、瀕死の三歩手前くらいのダメージに抑えてくれるという、需要皆無の魔法武器。
しかも魔力消費もそこそこ。
でも、これなら魔法強化した私の最大攻撃でも相手を殺さずに済む。
自前の攻撃力を上げて、武器で攻撃力を落とすという意味不明のムーブは置いとおいて。
とりあえず二百人を全力で殴る事にする。
「待ってくださいフレデリカ。貴女がそれを取り出した事で、何をしようとしているかが推測できました。それは私の合理的主義に反します」
「何よ。あなたにはシルフちゃんの護衛頼んだでしょうガブリエル」
「いえ。ここは私がやった方が合理的です。もう貴女は魔王ではないのですから指示に従う意味はありません」
右手を天に掲げながら、先日和解したばかりの天使が、したり顔で前へ出る。
おいおい。昨日の感動的なやり取りと涙は何処へ行った。
「あらあらガブリエルさん。それじゃあ、お手なみ拝見とさせていただきますわ。言っておくけど殺しちゃだめだからね」
「いいでしょう。では、とくとご覧あれ」