勝機
「フレデリカ!起動する」
「いつでもどうぞっ!」
コクピット内の計器やモニターに一斉に火が入る。
「敵の本隊まで距離二千」
一番近い敵の位置をホークに伝える。
「余裕で狙える。フレデリカ撃つよ。これを見れば王子も安心して王都にもどれるよ。様子見で五十パーセントで頼む」
「了解!任せて」
メイン兵装の魔導砲の出力調整は私の仕事だ。
半分の威力でも旧型の最大出力くらいはある。
体の中の魔法をイメージする。イメージはいつもと一緒だ。
蛇口の水を少しずつ絞っていくイメージ。
大丈夫。上手にできる。
自分に言い聞かせる様に力を絞っていく。
「いけるよ!」
「了解。撃つ」
ヴァーン!
頭の上の方で収束されたエネルギーが発射された。
光の帯が地平線に伸びて行く。
数秒置いて着弾反応。しかし、魔力感知のモニターから敵の数の減少が確認できない。
「あいつがいる!」
真っ先に優しく微笑む女性の顔が浮かんだ。
忘れもしない。盾の聖騎士。
「フレデリカ!」
その一言で理解した。
「最大出力!」
絞っていたエネルギーを一気に解放する。
「いけー!」
ホークが叫ぶ。
先程よりも高密度のエネルギーが光となる。
最大出力だと、さすがに軽い脱力感に襲われる。
ドォォォォォ!!
地平線で大きな炎の柱が立つ。
レーダーを確認。
先程あった魔力の反応が一つ残らず消えていた。
すごい。敵兵を殲滅できたということは、あの強力な防御壁を破った事になる。
まだ全ての手札も出していないというのに。
これだけの戦果を上げれるなんて想像以上に凄い子だ。
これで、あの盾の聖騎士も消滅してくれたら……
「やってくれましたね。あなた達、許しませんよ……」
外部からの音声がスピーカーから入ってきた。
忘れもしない、あの優しい声だ。
「すべての盾を私の防御にまわさなければ危なかった。その代償に罪のない兵士の皆様を死なせてしまいました。皆様方の無念は私が晴らしてさしあげます」
上空を映し出しているモニターが、銀の鎧を身につけてた人影を映しだしていた。
左手は力か入らないのか、ぶらりと垂れ下がっている。額から赤い血が流れていた。
「覚悟はよろしいですか?では参りますね」
頭上から何か重たい何かがのしかかってきた。
車両が地面に押しつけられる感覚がある。
車体全体が揺すぶられ、まるで地震の様だ。
「大丈夫だ。物理障壁の出力上げる」
車両に搭載されたバリアシステムの対物理の出力を上げる。
大きく揺れていた車体の振動と揺れが収まっていく。
「そんな……信じられない。神から授かった力が。こんな事が許されるはずがない」
あの沈着冷静だった彼女がうろたえていた。
「フレデリカ!ここで仕止める!」
「了解!」
最大出力で止めを刺すつもりだ。
ダメージを与えられる事は先程の砲撃で立証済みだ。
この近距離なら。
「スモーク!」
煙幕弾を発射。
弾は聖騎士の見えない盾にはじかれる。
だが灰色の煙が聖騎士のまわりを覆いつくした。
「ホークいけるよ!」
魔導砲フルチャージ分のエネルギーの充填が完了した。
「了解した。発射!」
盾の聖騎士には煙幕で目隠しした。絶対避けきれない。
主砲から出た光は、充満していた煙ごと全てを呑み込んだ。