帰還…… その1
目の前の空間に、何かモヤモヤしたものがくちを開けている。その奥からは、邪悪な感じの真っ黒な霧が広がっている。これから私は、このモヤモヤに飛び込まなくてはいけない。
これ……本当に大丈夫なのだろうか。
「それじゃあねフレデリカさん。あなたの偉業は、教科書には載らないけど、この国の記録には残るわよ。あまり人の目に触れる事はないけどね」
「私も……いろいろありがとうございました。二人にも伝えてください」
巫女さんと凛ちゃんとは昨夜にお別れを済ませてきた。
二人とも、ちゃんと『こちらの世界に残る案』を提案してくれた。
よかった。嫌われていなかった。いや、むしろ好かれていたかもしれない。だったら嬉しいと思う。なぜなら、私は二人が大好きだから。
二人には、三人お揃いのバングルをプレゼントした。
シルバーのシンプルなデザインの可愛いやつだ。
有名なブランドのものらしく、最初は高価だからって断られた。でも、こちらの世界で二年間貯めたお給料は、魔界じゃ使えない。その事情を話したら、なんとか受け取ってもらう事ができた。
「フレデリカさん。私、フレデリカさんの事大好きです!絶対に忘れませんから。だから幸せになってくださいね!フレデリカさんには幸せ一杯で楽しい人生を過ごす権利がありますから!絶対の絶対です」
そんなに泣いたら、可愛い顔が台無しだよ。
凛ちゃんは元が可愛いから。笑っている姿が似合っているよ。
「フレデリカ……一緒に秋葉原行ったの……楽しかったのよ。妾の趣味を理解してくれたのはアンタだけだったのよ……元気にやるのよ……」
ほんとに巫女さんらしい。
反対側を向いて顔を見せてくれなかったけど肩を震わせ泣いてくれている。
素直じゃないなぁ。しかたない……
私はツカツカと巫女さんの背後まで歩み寄る。
両肩を掴み、グルっと巫女さんの体を反転させる。
「ありがと巫女さん。はい、ありがとうのチュー」
巫女さんの額にキスをする。
「んぅ……何する……のね……うぅ……ちょっと恥ずかしいから胸借りるのね……ゔゔぅ……」
巫女さんが声を出して泣くなんて。
泣き声を聞かれない様に、私の胸に顔を押し付けた泣き声を抑えている。
「よしよし。私も巫女さん大好きだよ」
泣いている子供をあやすみたいに頭を撫でてあげる。
「ず、ずるいです巫女さん!わ、私も!」
凛ちゃんが突撃してきて三人まとめて地面に倒れ込んだ。