あたたかい世界 その3
予想通りだ。
二日後……
『魂』の移植をする事になった。
壊れた器から、違う器へと魂を移す作業。
それなりの魔力を必要とする為、魔界に帰るのが一ヶ月ほど遅れる事となる。
しかたがない。子どもの生命に関わる案件だった。
それに。
あの男に、あんな顔で頼まれてしまっては。
断ることなんて出来なかった。
あんなに必死で。
自分の子どもじゃないのに親の顔をしていた。
「真琴さぁん。なんであの八方美人男は、赤の他人の子供に命をかけるみたいな事したのでしょう?」
迂闊だ。
想定以上に酔ってしまっている。
御礼と称して水道真琴に誘われたわけだが。
少し飲みすぎたかもしれない。
あと、今気付いたけど。この人とサシで飲むのは初かもしれない。
(マスター。アルコール過剰摂取により、判断力が低下しています。解毒しますか?)
胸元で輝く蒼い宝石から声がする。
実際は、蒼の剣の思念が頭の中に直接送られてきている。
まったくもって。
この子は気がきく。
私に最良の道を案内してくれる。
(ありがと蒼の剣。でもねー、今はいいかな。判断力が低下していないと話せない事とかあるんだよ。魔界に帰る目処もたってきてさぁ。そうすると真琴さんとお話する機会も最後かもしれないし。今くらい舵が不安定な方が、お腹を割って話せると思うんだよー)
(承知しました……)
自らの進言が聞き入れてもらえなかったからか、蒼の剣の声に落胆の感情が混じっている様に聞こえた。
(蒼の剣。いつも心配してくれてありがと)
「……っと。ちょっとー。ちゃんと聞いてるのかしらフレデリカ」
蒼の剣とのやり取りで全く聞いていなかった。
「すみませんデス。考え事してて」
「あなたが聞いてきたから答えたのよ私は。もう一度言うわよ。薬師くんはねぇ。ああ見えて優しくて、しっかりしてるのよ。特に子どもには優しいの」
この人もまぁまぁ酔っている。
違うか。
結構な酔っ払いだ。
あの冷静沈着の水道真琴がここまで乱れるなんて。
ヤケ酒ってやつ……じゃない。逆に機嫌がいいんだ。
この人……浮かれている。
何かハッピーな出来事でもあったのだろうか。
「だからぁ、薬師くんがぁ……」
たしか、薬師っていうのは八方美人男の名前だ。
先日、彼の功績で難解な事件が解決した。
私も手を貸したけどね。
……んっ?あれ?もしかして?
「真琴さん……もしかして、その薬師さんって人の事好きなんですか?大好きな薬師さんがお手柄だったから嬉しいのですかねぇ?」
いつもの私なら、こんなストレートな言い方はしない。
真っ当なデリカシーの持ち主だからだ。
でも今は、心のブレーキやら何やらが壊れている。
質問に遠回りはできない。最短直線コースだ。