あたたかい世界 その1
およそ一年が過ぎた。
異質な存在である私でも、これだけの時を過ごせばこの世界に順応する事が出来る。
今では、すっかりこの世界の住人きどりだ。
ここは私がいた世界と違って毎日がキラキラしている。
朝起きてから夜ベットに潜りこむまで。
何かしらの、心がときめく事がおきる。
買い物した時の会計がゾロ目だったり。
信号機に一度も引っかかる事もなく目的地に辿り着けたり。
そんな些細な出来事でも心が踊る。
そして、そういう幸せな気持ちで毎日を送れるのは、巫女さんや凛ちゃん。真琴さんや他のあたたかく接してくれる人のおかげだ。
お洒落な服とメイクでショッピング。
私の好きな休日の過ごし方。
そしてその時。隣には凛ちゃんや巫女さんがいてくれる。
すごい昔にも、少しだけ同じ様な楽しい時間を親友と過ごした事がある。でも、それは残酷な人達が立てた計画によって長くは続かなかった。
そんな事は、この平和な国では起こらない。
安心して街中を闊歩できる。
「ねぇフレデリカさん。よかったら今日私の家で夕飯食べていきませんか?聡さん……じゃなくて家主にも許可もらってますから大丈夫ですヨ」
「ほんと⁉︎いくいく!わぁー楽しみだなぁ。そっかー凛ちゃんの彼氏さんにも会えるのかぁ。ほんと楽しみ」
「なっ、ち、違いますよ!彼氏じゃないですから。私がお世話になっているお兄さんみたいな人です。いつか恩返ししないといけない人なんです。誤解のない様にですよ」
こんな些細なイベントが、とても幸せに感じる。
どうしよう。
元の世界に帰りたくない。
太陽も青空もない私の世界。
何かが焼けた様な匂いがするのは住まいに火山地帯が近いせいなのだろう。
目を閉じると、深い深い地層の下層に閉じ込められ様な錯覚に陥る。
でもここは違う。
凛ちゃんの家の食卓は温かい光に包まれて。
凛ちゃんの同居人の男性も、初対面の私にも優しく接してくれて。とても優しくていい人なのがわかる。
「フレデリカさんどうぞ。聡さんが作ってくれました。聡さんは料理もできる人なんですよ」
そうか。凛ちゃんは、この人が大好きなんだなぁ。
彼氏じゃないとか言っていたけど私にはわかっちゃった。
凛ちゃんは聡さんに恋をしている。
いいなぁ。
私も、こっちの世界でなら恋ができるかもしれない。
恋をして結婚して。
昔に夢見た、穏やかな毎日を愛する旦那様と笑って生きていきたい。
でも、それは叶わない願いだ。
私には、そんな資格はない。
私の居場所は暗くて殺伐としたあの世界なのだから。