大決戦 一時間前。
普段より一時間が長く感じる。
強がってみたものの、緊張で筋肉が強張っている。
私ってこんなに本番に弱かったっけ……
魔界で魔王の座を賭けた決戦の時だって今みたいにはならなかった。むしろ、わりとユルユルだった気がする。
あの頃は友人とか何かを守らなきゃ的なものがなかった。
おそらくは、そのあたりの違いが関係しているのだろう。
「はい。コレどうぞ」
突然、首すじに冷たい何かを感じた。
「ひゃぁう!水道さん⁉︎いきなり何するんですか」
後ろを振り返ると、水道真琴が缶のコーヒーを差し出していた。
「あなたお約束通りの反応ね。やった甲斐があったわ。ありがと」
「お礼を言われる様な事はありませんから。あっ、コーヒーいただきますね」
私のいた世界とは違う筈なのに、コーヒーという嗜好品は何ら変わらない。
「フレデリカさん。あなたには謝らないとね。余裕がなかったとはいえ、最初の対応がぞんざいなってしまって申し訳なかったわね」
余裕がなかった?
一週間くらいだけど、彼女の事を見てきての印象は、
『何でも容易にこなすパーフェクトウーマン』
完璧に見える彼女にも余裕がなくなる時があるなんて意外だ。
少なくとも私から見た彼女は、冷静沈着な完璧な女性だ。尊敬はできるし、彼女みたいになりたいと思える。
「はい!缶コーヒーで悪いけど、勝利を願って乾杯しましょ」
もう一本の缶をこちらに向ける。
カンッ
二つの缶が打ち鳴らされた。
それから一言も言葉を発することはなかった。
コーヒーを飲み干すと踵を返し去っていく。
背中ごしでも、私の事を応援してくれているのがわかる。
それは上げた右手がVサインだったから。
彼女には見えないだろうけど私も同じサインを返す。
作戦開始まで一時間。
激励は皆から沢山もらった。
あとは、私の覚悟だけだ。