超弩級万能戦車スカイフィッシュ
空が白み始めてきた。
時刻を見ると六時すぎくらい。
やばっ、記憶が飛んでいる。落ちてしまったみたいだ。
「おはようフレデリカ。少しは眠れたか?」
「ご、ごめんホーク!私寝ちゃったみたい。ほんとごめん。私ばっかり楽しちゃって」
「大丈夫だよ。それより出発してから三時間くらい経つけど疲れてないか」
「うん、大丈夫みたい。この子やっぱり凄く燃費いいみたいで体感的には魔法力減った感じがしないよ」
ほんと凄い。
以前より二倍以上大きくなったのに前より楽すぎる。
本当に私が動かしているのか不安にすらなる。
「そうか。すかい……すかいふぃ……」
「スカイフィッシュ改!」
「そ、そう。そのスカイフィッシュ改さんのおかげで任務もはかどるよなぁ」
「いい加減覚えなさいよ。と言うか、わざとやっているでしょ」
「そんな事ないさ」
こっち側からは顔は見えないけど、ニヤニヤしてる顔が思い浮かぶ。
「それはそうと指定ポイントまで、あと八時間くらいかかりそうだし。ゆっくり休んでいていいよ」
「そうはいかないわよ。あなただって休まないと死んじゃうわよ。私、この子の操縦訓練したから平地の走行くらいならできるよ。こっちに操作系統回してくれたらやるよ」
今回のこの子はなんと、タンクのシートからも車両の制御ができるのだ。飛行や戦闘系統は無理だが、通常走行の資格だけは取る事ができた。
「そうか。じゃあ、あと一時間くらいしたら頼むよ」
「うん!頼ってくれて嬉しい!それじゃあ洗濯物取り込むから少しだけ止めてもらっていい。あっ、こっち見ないでよ」
ゆっくりと車体が停止する。
「外すよ」
プシュ!
三本のケーブルのロックが外される。
「ふぅ、よいしょっと。ねぇ、絶対こっち見ないでよ」
上はシャツを着てるからいいけど、下は下着一枚だ。ホークの座っているシートからは絶対見えてしまうはずだ。
「はいはい見ませんよ」
ゆっくりと段差を降り、外界へとつながるハッチに向かう。
ちょっとくらいなら見てもいいのに。覗こうとする素振りくらい見せろ。
面倒くさい女と思われるかもしれないが、私くらいの女の子は、皆こんな感じだ。たぶん……
安全ロックを外し、外へとつながる扉を開く。
朝の冷んやりした風が入ってきた。
空にはわずかな星が残っている。
「ふぁー、気持ちいいー」
このあたりは干ばつ地帯らしく生き物の姿はない。
主砲の後側の陰にまわり込む。
念のため、命綱の紐を腰に巻き付け移動する。
この子の身長は十メートルくらいあるのだ。
さすがにこの高さから落ちたらシャレにならない。
「うん、乾いてる乾いてる」
手早く衣服を回収し、元来たルートでコクピットに戻る。
「ホークー、ちゃんと乾いてたよ……ってわあああ!」
中に入った瞬間シートに座っているはずのホークと鉢合わせた。
「見ないでって言ったでしょ!もう!」
上官の顔面に手のひらを押し付ける。
「ぶぁ!いまのは事故だ!わかったから早く着替えろよ!」
結局見られる事になるんだ。
んっ?私、何ニヤついているんだ。謎だ。
「外見たら何もないみたいだし、ここで運転変わるよ。ちょっと待って」
取り込んできたばかりの制服を身につけ、自分のシートに座る。ケーブルを接続し、準備完了だ。
「いいわよ。回して」
ホークがメインシートのパネルを操作すると私の座席の下から操縦桿が迫り出してきた。これで操縦系は私の管理下になった。
「じゃあ頼む。二時間だけ任せるよ。少しでも何かあったら起こしてくれ」
「うん、おやすみホーク」
一分しないうちに下のシートから寝息が聞こえてきた。
あの人は前の任務から、ずっと休んでないんだ。私にはこんな事くらいしかできないけど役に立ちたい。
「ゆっくり休んでホーク」
私は、彼を起こさないように、ゆっくりとスカイフィッシュ改を発進させた。