番外編 早坂凛 死が二人を別つとき…… その10
10
ある春の暖かな日。
緩やかな風がカーテンを揺らした。微かにサクラの香りがする。
病院の一室に早坂凛はいた。
上体だけ起こしベッドの上にいる。ブランケットがかかる膝の上に何かの本が置いてあるが、読んでいるわけではないようだ。
たまに風がパラパラとページをめくる。
視線は何もない空中の一点を見つめ続けていた。
食事は補助があればとることができたが点滴は必要だった。
病室には早坂凛の母親がベッドの横の椅子に座って雑誌のページをめくっている。
あの事件から一年、早坂凛はあの時のままだった。
「失礼します」
スーツ姿の男性が病室に入ってきた。
「今日もきてくれたんですね。ありがとうございます」
母親は立ち上がり彼に深く会釈をした。
彼の名前は日向聡。
早坂凛がこうなってからほぼ毎日この病室に通っていた。
日向聡が今回の一件を知らされたのはすべてが終わった後だった。
ある日、留守中に部屋が片付けられていたり食事が用意されていた現象が収まった。相談していた友人の探偵に聞いてもはっきりとした答えは返ってこなかった。それどころかストーカーは収まってたから捜査は打ち切りで解決という結論に達した。
怖かったが残っていた手紙に書いてあった連絡先に電話をしたところ早坂凛の母親が出て、すべてを聞かされたのだった。
早坂凛の母親は今回の事件の全てを知っていた。
探偵を名乗る男が自分のもとん訪ねて来たことあった。自分の子供が犯罪を行なっているときかされた。証拠のビデオを見させられ、実際、現場での現行まで見させられ認めるしかなかった。
そして子供を持つ親として、究極の選択を強いられた。
一つ目は、警察に逮捕され、前科ありの人間として人生を送る選択。
そして二つ目。自分たちで罰を与え更生させる方法。
今後の人生、結婚等を控えた娘の事を考えると母親は後者の選択を選んだ。ただ母親は自分のさじ加減で躾ければと甘く見ていた。まさか、こんな残酷な結果になるなどとは夢にも思わなかった。
変わり果てた自分の娘を見た時、娘と一緒に命を断とうと考えた。だがそんな時に日向聡から娘の携帯に連絡が入ったのだ。
謝罪しなければいけないのは罪を犯した自分達のはずだったが、日向聡の方から謝罪の言葉を受けた。
「申し訳ありませんでした。私がちゃんと凛さんの気持ちを受け止め、交際できない事をつたえるべきでした。それが出来なかった為に凛さんを酷い目にあわせてしまいました。本当に申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げる青年を見て母親は泣き崩れた。
それから日向聡は仕事帰りに病院に寄る事が日課となったのだった。
そして、それから更に三年のの月日が経つ。