真夜中の伝令
ビィービィー
インターフォンの音で目が覚めた。
一瞬、寝過ごしてしまったと思い変な汗が吹き出した。
慌ててカーテンを開けると外は完全に闇だ。
驚かせないでよ。焦って心臓がドキドキ騒いでる。
外を映すモニターを見る。軍服から味方の兵隊である事はわかるが知らない顔だ。
時計の数字は深夜二時十分を表示している。
「こんな夜中になんなのよぉ……」
半分以上寝ている脳みそと体を無理矢理起こし、マイクのところまで這っていく。
「はぁい、フレデリカ聖特級ですが……どのようなご用件でしょう」
「おやすみのところ申し訳ございません。王都より直々の指令をもってまいりました」
口調からするに上官ではないようだ。
「はぁい、いま開けますね……」
今度は扉のとこまで這っていき、なんとか立ち上がる。
フラつきながらも直立不動の姿勢までもっていき、扉オープン。
「そちらこそご苦労様です。指令書いただきます」
「はい、こちらです。では、私は次があるので」
封筒を受け取ると伝令兵は早足に去っていった。
あぁもう、このままベッドに戻って布団に沈みたい。でも、この封筒確認しないとマズいわよね、やっぱり。
こんな深夜に緊急で来るなんてロクでもないに違いない。
私二時間前に遠征から帰ってきたばかりなんですけど。
封蝋を外すと中から文書が一枚。
現在、南東方面の第七陸上部隊が敵と交戦中である。
敵部隊には天候を操る、強力な魔術を使う者がいる。
善戦はしているものの部隊は徐々に後退とのこと。
直ちに支援に向かう。
いやいや。後退じゃ善戦してないじゃん。
ビィー
また来客だ。
「はいはい。今度はどちら様ですかぁ」
応対が面倒なんで扉オープン。
「おつかれフレデリカ」
「あぁ、やっぱり……お察しの通りお疲れ中です。どうせコレでしょ」
先程の指令書をピラピラして見せる。
「そんな嫌そうにするなよ。これでも、まぁまぁ偉い人だなんだから俺」
「はっ!申し訳ございませんホーク司令総監」
「気持ち悪いからやめろ。あと、そんな格好で出てくるなよ伝令兵にもその格好で対応したのかよ」
格好?あぁ、この部屋着のこと言っているのか。お父さんは娘がおへそを出して人前に出る事が気に入らないのかもしれない。
「そうだけど。別に裸じゃないし。ちゃんと服着てるし。何か駄目かしら。しょうがないじゃない。二週間ぶりに我が巣の寝床についたのよ。寝るでしょ。普通」
「もう、いいや……とりあえず身支度整えてドックな。ちなみに二週間な」
「えぇー、いまから?また二週間?あと私ってば、まぁまぁなお年頃の女の子なのよ。だから身支度とかあると思うの。だから……」
「『直ちに』って書いてあったろ。あの命令、王様直々らしいからな。失敗したらリアルに首切られるぞ」
まぁ、こんな夜中に緊急で来るのだから、わかってはいたけど。
「わかったわよ。一時間で『スカイフィッシュ改』でね」
「ああ、十五分でな。あとスカイフィッシュ改って……何でもない。急げよ」
おそらく面倒くさくなったのだろう。文句を途中で切り上げ、早足で格納庫の方に向かっていった。
スカイフィッシュ改に乗り込むと、すでにホークは自分のシートに座っていた。
「三分遅刻な。もう出るぞ。あと何で服装さっきのままなんだよ」
「あのねぇ。私二時間前くらいに長旅から帰ってきたばかりなの。洗濯しちゃって乾いてないのよ。臭くなっちゃうから生乾き嫌なの。基地から離れたら外に干させてね。このズボンも乾いていないのよ。あとで脱ぐから、こっち見ないでね」
「わかったよ。接続確認……じゃあ出る」
ゆっくりと車体が動き始めた。
モニターをみると見送りの人達が手を振っているのが見えた。
その上で星が流れる。
星に祈る。
また、ホークと無事にここに戻ってこれますように……