番外編 早坂凛 死が二人を別つとき…… その2
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早坂凛。
彼女は国内でトップクラスの超難関大学の一年生である。
高校時代は生徒会長をつとめ信頼も厚かった。
異性からはもちろん、同性や教師からも好かれるほど、まわりから慕われる生徒であった。典型的なスーパー優等生。
容姿は、名前の通り凛々しく美しい。とくに美しく長い黒髪は同級生の女生徒には羨ましがられた。
自分の容姿や学力が優れている事は自覚してはいたが、決してそれを鼻にかけたりはしない。
誰にでも差別なく接し、人懐っこい性格で、まわりにすぐにうちとける事ができた。
そんな完璧な早坂凛がある青年と出会う事になる。
その青年の名前『日向聡』
早坂凛の三つ年上の会社勤めの普通の男性である。
日向聡は高校卒業後、社会人として働く道を選んだ。
別に学力が足りなかったわけではない。
本人曰く、
「これ以上勉強したくない」
人生で成し遂げたいことや目標があるわけではない。
しかしながら彼は、仕事に対して熱心でミスなくきっちりこなす。
能力的にはなんでもできるが突出したところは見あたらない。
器用貧乏と言われてしまうかもしれないが、現代社会においてこの『そつなくこなす』というのは重宝されるものである。
だから職場での信頼はそれなりにあつかった。
そんな彼が通勤途中の電車内で早坂凛と出会う事になる。
毎朝、決まった時間。決まった改札。決まったホームから決まった車両に乗り込む。
日向聡は車両の連結部のところがお気に入りだった。
そこにいれば、たとえ車内が混み合う事になったとしても自分のスペースを確保する事ができるからである。
その場所から目的の駅まで、外の風景や他の乗客を眺める。
そんな毎朝の電車内。ひときわ目を引く女生徒がいる。
彼女も毎朝、同じ車両の同じ場所に立っていた。
ドアの真横に彼女はいる。
美しい黒髪の美少女。
高校生の早坂凛である。
彼女が学生である事は身につけている制服で一目でわかった。
他の乗客もチラチラ視線を彼女に送っている。
ある蒸し暑い朝、早坂凛の制服のポケットからハンカチが落ちた。
ハンカチで汗を拭ったあと、それをポケットに戻そうとした。しかし、上手く入らずポケットからこぼれ落ちたのだ。
彼女は、それに気づかなかったが、距離が離れたところから見ていた日向聡には、落ちたハンカチがよく見えた。
本人は気づかず、近くの人も誰も指摘もしない。
仕方なく近づきハンカチを拾う。
軽くはたき、彼女にハンカチを差し出す。
「これ。落としましたよ」
お互い目が合った。
「あ、ありがとうございます」
戸惑いながらペコリと頭を下げる。
これが早坂凛と日向聡の馴れ初めである。
早坂凛は同級生の親友に、そう話している。
その日から早坂凛は日向聡の事を目で追うようになる。
今まで気づかなかったが、彼も毎朝同じ車両の同じ場所にいる事がわかった。
日向聡に一目惚れした事にはすぐに自覚した。
しかし、恋愛経験が豊富ではない彼女は話しかける事が出来なかった。
毎朝、同じ車両に乗ってはいるが告白までにはなかなか至らない。しかし自然と彼の事を目で追う様になる。
そんな日が一年以上続いた。
「ねぇ凛!古典的だけど手紙書こうよ。連絡先書いてさ。あまり重くならない様に簡単にね。私も手伝ってあげるからさ。そうねぇ……来月の卒業式の日に渡そう!」
一番の親友が背中を押してくれる。
そして高校三年生の最後の朝。親友の協力で、ようやく連絡先を渡す事に成功した。