アキハバラ その2
「ひどいじゃないのよ。妾を置き去りにするなんて。あなた達二人には神の罰が下ることになるのよ」
冷たいミルクコーヒーをストローでチュウチュウ吸っている。
地下にあった謎の書店に置き去りした事でお怒りみたいだ。
口を尖らせたままストローを使っている。なかなか器用だ。
「巫女さん。最初から私は嫌だと言ってました。それなのに巫女さんが無理矢理フレデリカさんを如何わしいお店に連れ込むからですよ。私だって、フレデリカさんのこと放っておけるわけないじゃないですか、もう」
やっぱりだ。この子は聖女に違いない。
出会ったばかりの私のことを、こんなに心配してくれるなんて。
私が男なら即お嫁さんに頂く。
「まぁ凛はいいのよ。あなたとは属性そのものが相反する存在である事が判明しているから。それで?フレデリカの弁明を聞くとするのよ」
いきなり矛先が変わった。
「えっ?私?私は……えっと、記憶がおぼろけで」
あまりのカルチャーショックで一部の記憶が欠落している。
「そんなベタベタな言い訳が妾に通ずると思っているのかしら。見くびられたものなのよ。それが言い訳として通じると考えているのは、日本の政治家全般と水道真琴だけなのよ」
い、いや。本当に記憶が……
「あっ……えっ……?あの……あっ」
「ちょっと巫女さん!フレデリカさん困ってるじゃないですか。私だって、ああいうお店は苦手ですよ」
私の天使が助け船を出してくれる。
「ははは……慣れれば大丈夫になると思いますけど。それにしても、ここって巫女さんか凛さんの別荘か何かなんですか?」
「えっ?違いますよ。何故ですか?」
早坂凛が不思議そうな表情で私の顔を覗き込む。
あれ?何かおかしな事言った?
「えっ?だってお手伝いさんがいるから。メイドさんの服着ている人いるし……って違うの?」
んっ?巫女さんが笑いを堪えているように見える。
「いえ、違うんですよ。ここはカフェ……というかメイドカフェっていうもので。そのメイドカフェの中でも比較的普通のお店で。つまりは、一つのコンセプトをテーマとした喫茶店みたいなものなんですよ。まぁ、秋葉原という街が持つ独特の文化ですね」
早坂凛が、すごい丁寧に説明してくれた事はわかるのだけど。
しかし、その内容がサッパリ入ってこない。
とりあえずわかった事は、この『アキハバラ』という街が独自の文化を持ち発展してきたという事だ。
更には、この街にいる人々の皆がアキハバラの文化を心の底から楽しんでいる。
「なんか難しいけど、全てが新しくて断然興味が湧いてきました。よかったら他の場所も教えてください!私、アキハバラの事もっと知りたいです」
「ほんとですか⁉︎そうしたら次は、私の得意な場所を案内しますよ!さぁ。巫女さんも早く飲んじゃってください。次に行きますよ!」