女坂探偵事務所 その4
「時に。フレデリカは明日から、空間転移のマーキングで彼方此方回るのよね?」
彼方此方という台詞に合わせて、巫女が指をクルクルと回す。
「そうね。まだ時間はあるけど、余裕をもって明日から行動しといた方がいいよね。今回の場合は特に」
現在、正確な隕石の落下地点は割り出せずにいる。
正確な座標が出るのは、おそらく落下直前。
それに備え、転移で瞬間移動できる様に各地点をイメージ出来るようにしておかなければいけない。
各地を回るメンバーは、この場にいる三人。
私、巫女さん。それに早坂凛さん。
今は、その打ち合わせがてら昼食をとっている。
探偵事務所から五分ほどの場所にある食堂だ。
ここは『アキハバラ』と呼ばれる街。
巫女さん曰く、
『世界で一番エキセントリックに進化した都市』
「ふふふふ……せっかく経費使えるわけだし豪遊してしまうのね」
「巫女さん。あまり無駄使いすると真琴さんに怒られますよ」
「いいのよ凛ちゃん。作戦をしくじったら皆死ぬのよ。あまり悔いを残し過ぎると成仏できないのね。店員さんすみませーん!餃子を二人分所望するのね」
巫女が新たな料理を注文する。この子ってば見た目に似合わず大食いのようだ。でも『ぎょうざ』なるものは気になる。言葉の響きが既に美味しそうだ。
それから餃子とデザートを平らげ、私達は店を出た。
「さぁて。食後に運動がてら散歩でもするのね。フレデリカ。妾についてくるのよ。とっておきの場所に案内してあげるの」
「えっ?とっておきの?……えっと……よくわからないけど。でも、お願いします」
明日から忙しくなるかもしれない。
せっかく知らない世界に来たのだ。
異文化にふれておくのも悪くないかもしれない。
「ち、ちょっと巫女さーん!もしかしてフレデリカさんを、あのお店に連れて行くつもりじゃないですよね⁉︎ダメですよ!あんな乱れた内容の本を見せては!」
「乱れているだなんて失礼なのよ。あれはあれで我が国の文化なのよ。それにフレデリカには素質を感じるのよ」
巫女さんが『ぎゅっ』と手を握ってきた。なんとも熱烈力強い。そして熱い視線。何が彼女をここまで燃え上がらせるのか。
それにしても。たった一日、一緒に過ごしただけなのに、ここまで心を許せるようになった。私のことも人として接してくれている。
きっと根はいい人なのだ。
「何の素質なのかは分からないけど、巫女さんがそう言ってくれるなら私はついて行きます」
私も巫女さんの手を握り返す。
「大丈夫かなぁ。フレデリカさん。本当に無理しなくていいんですよ。巫女さんの趣味に付き合う事ないですから。気持ち悪くなったら私に言ってくださいね。すぐに連れ出しますから」
「ありがと。早坂さん。なんか久しぶりに人の優しさに触れたよ」
相変わらず優しい。私も、この人くらい優しくなれたらな。
でも『気持ち悪くなったら』というワードが気になる。
まっ、いいか。今日は楽しもう。
「凛でいいですよフレデリカさん。本当は最初、悪魔を召喚するとか言うもんだから、ちょっと怖かったんです。フレデリカさんが来てくれてよかったです。改めて、よろしくお願いします」