異世界転移? その1
「ふぁ……今日はヒマね。まぁヒマということは平和であるということの証だから良いことなんだろうけど」
座り心地の悪い玉座に半分寝そべる感じで時間を過ごす。
お尻が痛いので、毛皮を八枚重ねで敷いて痛みを軽減している。
正直な話、私に仕事というものは決まっていない。
仕事らしい仕事と言えば、来客時の対応くらいだ。
友交的にお話に来るお客様。
この城と私の生命を奪いにくるお客様。
両者とも私が応対する。
だが、そんなお客人も頻繁に現れるわけではない。
どちらかといえば、今日みたいな日の方が多いと言える。
たまにはデスサイズさんみたいに、ひたすら惰眠を貪ってみる日もあるけど毎日は飽きてしまう。
「ねぇ蒼の剣。何か楽しいこと起こらないかしら。週に二日の自由行動の日まで四日もあるし。退屈よね」
玉座の右手側に浮かぶ美しい剣を人差し指で撫でる。
今の私の話し相手は、この子だけだ。
「マスター。先ほど自ら『平和である事は良い』と話していましたが」
「そうなんだけどね。でも、こうも何もないとね……仕方ない。剣術の鍛錬でもしようかな。あなたに相手してもらうようだけど付き合ってくれる?」
「勿論です。どんなに大きな力を持っていても日々の鍛錬は必要であると考えます。喜んで相手を務めさせてもらいます。ただマスターの場合、自身の身を守る為にダメージの回復手段を習得する事を薦めます。身体に組み込まれた人工物は先日除去が完了しています。ですので一般的な攻撃魔法や補助魔法。そして回復の魔法も習得する事は可能となっています」
さすが進化した蒼の剣。
的確なアドバイスをしてくれる。
蒼の剣が言う通り、私の体の中には機械の部品が埋め込まれていた。これは人間時代に『タンク』と称される兵器になる為に体に埋め込まれた機械の部品だ。
この部品が魔力の流れを阻害し、私は一般的な魔法や気のコントロールが出来ない体質だったのだ。
そして、その部品は摘出する事が不可能と思われていた。無理に取り除く事によって、別の器官を損傷してしまう可能性が高かったからだ。
だが蒼の剣の進化により、その不可能を可能へと変えることが出来た。
蒼の剣は膨大な知識と精密な動作を駆使し、私の身体に埋め込まれた人工物のみを除去してくれた。
空間を切る応用なのか、蒼の剣の刃は、肉体に一切傷をつけず機械部分のみを破壊。その破片はそのまま切り開いた異空間に投棄。
これにより私の身体は、二百数十年ぶりに一般的で正常な身体へと戻る事が出来たのだった。