不快感
ハッチから外に出る。
鉄の焼けた匂いがする。
不快だ。
乾燥して装甲にこびり付いた土が風によって土埃となり舞い顔にかかる。
不快だ。
車両から降りるのに地面までの微妙な高低差がある。
以前はホークが助けてくれたのに今は自分の力で降車しなくてはならない。
すべてが不快に感じる。
シャルは三週間前に昇進の為の合宿に行ってしまった。訓練やらで忙しいのかもしれない。連絡もない。
今の私はひとりぼっちだ。
私って全然友達いなかったんだな。
ホークとシャルがいたから気がつかなかった。
いま感じている不快感も二人がいたから気にならなかった。
「フレデリカお疲れ様」
ホーク発するこの言葉も以前と違う。同じ言葉なのに全然違う。
私は視線も合わさず同じ言葉をそのまま返す。
部屋に戻ってシャワーでも浴びよう。身体は十分に疲れているから、すぐに眠れるだろう。
「フレデリカ待って」
自室に戻ろうとする私をホークが呼び止める。
なによ。任務は終了したんだからタンクの私は用済みでしょ。
「フレデリカ。今夜、時間空いてないか?」
何?もしかして、ちゃんとした返事もらえるの?それなら……
「あ、空いてるわよ……」
「よかった。この資料に関して君と擦り合わせしときたい。近々、実戦投入される新型に関してなんだが……」
「ごめん!やっぱ無理!約束があったの思い出したから。この資料に目を通しておけばいいんでしょ」
ホークの手から厚い紙の束をひったくる。
そのまま自分の部屋へと走りだす。
「フレデリカ!」
聞きたくない。
さっさと部屋に戻って休もう。
背中からホークの声が聞こえてきたが内容は聞き取れない。
頬を伝い、地面に向かって水滴が落ちていくのを感じる。
何これ。一人でヒステリックおこしちゃって。私ってば気持ち悪い嫌な女だ。もう限界なのかな……
カードキーでロックを外し部屋に入る。
手にある資料をソファーに放り投げ浴室に入った。
服のままシャワーのスイッチを押した。
熱いお湯が髪に付いた土を洗い流す。
どしゃ降りの雨の様なシャワー音が私の泣き声を消してくれているはず。
だから、いくら大きな声を出そうが大丈夫だ。
泣いて全部出してしまおう。
もう全部リセットしよう。
記憶のない私は最初からひとりぼっちだ。
不快だ。