名もなき魔導具 その1
「魔王フレデリカ様。どうかこちらをお納めください。こちら大変貴重な魔導具となっております」
長い黒髪の青年が両手で箱を差し出している。
細かな細工が施され、金でできた龍の彫刻で装飾されていた。
中身は必然的にこの箱よりも高価なものということになる。
それにこの青年。姿は人型だけど実態は異なる者。
この感じ……覚えがある。
「この気配は……魔竜」
「さすがフレデリカ様。この者、気配を本来のものとは違うものに変化させて誤魔化しておりますが。容易にお見抜きに」
賞賛の拍手が室内に反響する。
紫の妖艶ドレスに身を包んだデスサイズだ。
こんなにボディラインが出るドレスを着こなせるのは、彼女のスタイルが優れているからに違いない。胸からお尻までが見事に強調されるようにデザインされている。
スカートの両脇に深いスリットが入っていて、見え隠れする細くしなやかな足がセクシーさをアピールしていた。
悔しいが私じゃ着こなせる自信がない。
「フレデリカ様。どうぞこちらを」
竜族から受け取った箱を手に取る。
二十センチほどの箱を開けると、虹色に輝く玉が入っていた。
「綺麗……」
無意識に感想が口からこぼれた。
「私ってば結構長生きしているけど、こんなの見たことない。魔導具なのはわかるんだけど……」
ほんとうに初めて見るものだ。
大きさは占い師が持つ水晶玉くらいで七色に輝いている。
魔力が込められているが、それほど膨大な魔力量ではない。
かといって強度が優れているかというと普通の水晶と変わりがないように感じる。
「使者よ説明を」
デスサイズが説明を促す。
「これは我が一族の研究者が長年の研究の末に精製した魔導具です。量産にも成功しましたが、一度に少量しか生成出来ないのが問題点でございます。本日、献上いたしますのが完全なる完成品でございます」
「そう。なんか貴重品である事はわかったけど何に使うの?あと、その深々と下げた頭を上げなさい。そこまで遜ることないわよ。あなただって名誉ある竜族なんだから。親睦を深めるという意味で対等にお話しましょ。いいよね?デスサイズさん」
「はい。フレデリカ様が良いのであれば」
「あなたも堅苦しくしなくていいわよ。そういうわけで場所を変えましょう。お茶でもしながら話しましょ」