魔王フレデリカ その5
「了解しました。護衛にデスサイズを置きましょうか?呼べばすぐに来ますよ。どうせ惰眠を貪っているでしょうし」
「そうね。使者とのやり取りは彼女が上手いし。彼女にお願いしようかな。使者の方は客室に通してあげて。お茶とお菓子も忘れずに勧めてあげてね。よろしく」
「貴女はどちらに?」
「ちょっとお風呂行ってくる。返り血とかは浴びてないけど、このままじゃ何か嫌だし。それじゃ」
右手でバイバイしながら広間を出る。
私の居住地である、この魔王城には来客が多い。その種類は大まかに分けて二種類。
先程のように、いきなりラスボスである私を倒して王の座を狙う強い力を持つ者。
逆に、力の弱い者は、貢物をもって強き者に取り入る。そうする事で自分の種族は安泰を得られるからだ。
これから会う相手は後者。
自分より格下とはいえ、客人にあたる。
客を迎える時は身だしなみは整える。これは私のポリシー。
赤い絨毯が敷かれた長い階段を下っていく。
建物でいう三階分を降りると岩盤剥き出しの空間が広がっていた。
さらに階段を降りた先の扉を開けると屋外にでることが出来る。
この城で一番見晴らしのいい場所。
見晴らしがいいといっても、私が知っている人間界よりは格段に落ちる。けど視界を遮るものはなく地平線を見渡せた。
遠くには火山の火口が見える。灼熱のマグマが空をほのかにオレンジ色に染めていた。
……なんかこの景色って人間界でいう『地獄』にそっくりだ,
まぁ、そんな地獄の中にも唯一、目の前に素晴らしいものが存在する。
温泉だ。
これを設計した魔族はなかなかいいセンスをしている……なぁんて。
この露天風呂を作ったのは、何を隠そう私だ。
地獄の中にある天国。
ここに来れば嫌な事やストレスが流れ落ちるような気がする。
身につけているものを全て脱ぎ、平らな岩の上に並べるように置いていく。
右足をお湯につける。
「あつっ……」
ゆっくりと体を沈めて身体にお湯の熱さを慣らしていく。
でも温泉はこれくらいが丁度いい。
肩までお湯につかり、伸びをする様に思いっきり両足を伸ばす。
「うぅーん……気持ちいい。この文化だけは人間界から持ち込んで正解よね」