番外編 新章序章 魔界での戦い その6
「ふぅ。いいお湯ね。まともな人間に戻ったような気持ちになる。昔を思い出すわー」
「いえ。それは間違っています。私も貴女も完全に魔族です」
「わかってるわよ。うるさいなぁ。それよりこっち見ないでよね」
せっかく幻想的な雰囲気の中でくつろいでいるのに現実にもどされた。
ここは海沿いにある洞窟の中。その中にある広めの空間だ。
昔住んでいた家の二倍くらいの広さがあるように思える。
温泉が湧き出ていて、私たち以外誰も来ないという秘境中の秘境。
何故ゆえ誰も来ないかというと。海底にあるからだ。
しかも、この場所までくるのには困難を極める。
この海底洞窟の入口は海底二十メートルのところにある。
その入口に入るとすぐに直角の崖になっており、その崖をさらに二十メートルくらい潜ると空気のある空間がある。今度はそこから山登りだ。潜ってきた二十メートルを戻るように鍾乳洞の崖を登っていく。
小さな空洞が連なり、地上から空気を呼んでくれて呼吸も問題なくできる。
魔魚にかじられ、流された天使の半身を探しに来た時。偶然見つけた私専用の温泉だ。
「あとで服と鎧も洗わないとね。やっぱり臭いが付いちゃってる。これ落ちるのかな」
「まぁまぁ。今は他の事は忘れて、この状況を楽しもうではないですか」
こいつ。心の底から楽しんでいる。誰のせいで、こうなったのかわかっているのだろうか。
「あのね!……まぁいいわ。その意見には私も賛成だし。あなたの作った魔法の灯りも月みたいで綺麗だし。昔やった『お月見』ってやつみたいでいいかも」
ほんとうに気持ちいい。
ここを棲み家にしてもいいんじゃないかと思えるほど、居心地がいい。
いやいやだめだ。こんな所に根付いてしまったら、むこうの世界に戻れなくなってしまう。
そろそろ戻らないとニーサちゃん怒るだろうなぁ。
いや。もう怒ってるかもしれない。何せ、一年以上連絡していない。
天使も、だいぶ力を取り戻してきたし。
昼間やった火炎魔法のぶつけ合いから推測しても、中級魔族くらいなら余裕で追い払える。
そろそろ……いいかな。
「ねぇ天使。あなた、もう一人で大丈夫じゃない?」