番外編 新章序章 魔界での戦い その5
天使が放った火炎と同等の威力の炎をぶつけて相殺した。
高温同士の魔法は発動者以外のものにきわめて大きなダメージを残す。
発生した熱により、草は灰となり、樹木を炭へと姿を変えた。
爆発の影響で、あたりに水蒸気が立ちこめている。
きわめて視界が悪い。
しかし、そんな事は些細な問題だ。
そんなことより、もっと重大な事象が発生している。
「最悪だわ。服にこの臭いが……大丈夫なの?これ落ちるのかな。ちょっと天使!この臭いどうしてくれるのよ。服のストックも少なくなってるんだからね」
特殊な植物か何かが燃えたのか、何とも言えない臭いが充満している。この臭いに近しいものは……獣の排泄物。
身に付けている防具や服にも臭いが染み付いている気がする。
あと、これヤバイ。思いっきり吸い込むとむせる。呼吸が困難だ。
だめだ。この場に踏み止まれない。
「天使!ほら!私の手に掴まって。瞬間移動で別の場所に跳ぶから」
左手で口と鼻を覆いながら右手を天使に差し出す。
「すまない。こんな事になろうとは……」
天使も鼻を手で覆っている。
顔が引き攣っているのが少し可笑しい。
少し人間っぽさを感じる。
何だこの親近感。
「いいから!跳ぶよ!」
躊躇している天使の手を無理矢理掴む。
とりあえず、この臭いを洗い流せる場所に行こう。
この状況下では選択肢は一つ。
頭の中に思い描く場所に魔力を飛ばす。
以前に行ったことがある場所の中で、最適な場所はあそこしかない。
景色が変わる。
焼け野原と化した森林地帯から深淵なる暗闇の世界に。
何も見えない。
でも目的地であることは間違いない。なぜなら、ここの空気が温かいからだ。
「ムーンライト」
天使の声が聞こえた。
目の前に光の球体が現れる。
月明かりの様な優しい光。
魔法の光に照らされて、自分が目的の場所にいることを再確認する。
「ありがと。ここも特に変わりはないみたいね。うん大丈夫そう。ここで休みましょ」