エピローグ
あぁ。とても懐かしい光景。
それでいて。わたしがずっと見たかった光景。
皆が揃って笑っている。
昔は、あたりまえだと思っていたけど、それはとても貴重で大事なことだったんだ。
わたしの旦那様は、体力や腕力は現役の頃より衰えてしまった。
でも剣術の腕に衰えは見られない。足技も絡めてくるのでトリッキーな攻めを繰り出してくる。
娘には激甘すぎて、将来が少し不安だ。絶対に甘やかし放題になる。まぁ、わたしが見張っているからダメな大人にはさせないけどね。
スパークとリンクは今でも仲良くやっている。昔みたいに一緒に旅をする事はなくなってしまったけど、定期的に遊びに来てくれる。でも、来てくれた時はホークに剣術の修行で、かなりしごかれている。
もちろん二人とも勇者の力は昔のままだ。巨大な悪は現れないから、ギルドの依頼で生計を立てながら人助けの毎日を送っている。
でも世界のピンチになったら、誰よりも速く駆けつけてくれるだろう。
タマヨリちゃんは一年に三回くらいかな。季節の変わり目にショウナン国の季節の野菜とか特産品をお土産に持って来てくれる。彼女もわたしと年は変わらないはずだけど、現役バリバリの格闘家をやっている。どうやら道場を開いて弟子の育成に励んでいるみたい。
今日はフレデリカさんがショウナン国まで迎えに行ってくれた。急なお誘いだったけど、ショウナン国のお酒を片手に遊びに来てくれた。道場は一番弟子に丸投げしてきたみたい。この子も昔と変わらないな。
フレデリカさんは本当に昔のままだ。
本人は年をとらない事に悩んでいる。不死ではないけど、どうやら不老に近い状況みたいだ。
ずっと魔界にいたからか、体質が魔族側に近づいてしまったらしい。背中に翼を生やせる様になったのも、その影響らしい。
「空中での制御が容易になったんだー」
みたいな事をカラカラと笑いながら話していたけど、完全に人外だから……なんて言えるわけもなく、わたしは半笑いしかできなかった。
料理の腕は変わらず……いや。昔よりも段違いに上がっている。
けど、よく分からない謎の食材を出すのはやめてほしい。どう見ても、こちらの世界で獲れたものではない肉を使用した肉料理が目の前に並んでいるが、なかなか手が出ない。みんなには絶賛みたいだから、この事は黙っておこう。
そして、一番問い詰めなければいけない『こちらの世界に戻って来なかった理由』を訊いた。詳しくは教えてくれなかったけど、どうやら大天使と闘っていたらしい。あちらの世界でも、大天使の『不死能力』は健在だったらしく、最近やっとケリがついたらしい。
これからは、こまめに顔を出してくれるみたいだから、全て許してあげる事にした。
そして今の楽しい時を過ごせるのも、三人の聖騎士さん達のおかげだ。彼らのことは、生涯忘れる事はないだろうと思う。
そして娘のフレデリカには穏やかな人生を歩んでほしいと思う。
わたしみたいに、ドタバタした生き方は避けてほしいなぁ。
もうすぐ五歳の娘は活発に動く。
親を見習って、剣士とかにはならないでほしい。
青空の下。
さくら舞い散るなか。
みんなが全員笑っている。
これから先の未来。再び世界の危機が訪れる事があるかもしれない。
その時は……わたしの娘のフレデリカが大人になるまでは、わたし達が世界を守っていこう。
その後のことは、残った子供たちがなんとかしてくれるだろう。
本来なら、
『神のご加護を』
なんて、お祈りするのだろうけど。でも神様は、この世界のことを滅ぼそうとしたくらいだからアテには出来ない。結局、この世界の災厄は自分達で何とかするしかないのかもしれない。
それにしても日差しがポカポカで気持ちがいい。
タマヨリちゃんが教えてくれた、この『お花見』という行事で食事とか会話をしているだけで、ここにいる皆が家族になったみたいに思える。
来年も。それから先も。毎年みんなで集まろう。
「おかあさーん!おかあさんもおいでよー!」
わたしのフレデリカが呼んでいる。
「わたしの愛するフレデリカー。いま行くわ」
手に持っていた料理をテーブルに置いて娘のもとへ向かう。
「あらニーサちゃん。『愛するフレデリカ』って、どっちのフレデリカのことかしら」
いたずらっ子みたいな表情で『最強』の方のフレデリカが笑う。
「安心してください。どちらのフレデリカも同じくらい愛していますよ!」
第一部 完




