フレデリカ その3
翼のある影が徐々にわたしの方へと降りてくる。
近づいて来るにつれ、大きな広げられていた翼が折りたたまれていき、地面に立つ時にはなくなっていた。
対峙して気付く。翼がなくなれば人間と同じ形をしている。
それに小柄だ。わたしより身長が低い。
「この悪魔さんに人の言葉が通じるとは思えないけど。話してみようかしら」
ふふっ
えっ何⁉︎笑ったの?わたしの言葉に反応したってこと?
もしそうなら知能が高い可能性がある。
「厄介ね……なら!」
先手必勝。今ならまだわたしの得意な戦いができる。
気配を消しての奇襲攻撃。
浮遊の魔法と跳躍力向上。それに反発の魔法を組合せ、一気に上空二十メートルまで飛び上がる。
「一撃で終わらせる」
重力に身を任せ、目標に向かい自由落下で突撃する。
軌道修正は直前にかける。威力は直撃の瞬間に魔法で底上げする。
死角に回り込んでから飛び上がったから、わたしの位置は把握されていない。いける!
バサッ!
何かがわたしの上半身にに巻き付いてきた。
「きゃあ!」
バランスがくずれる。
これじゃあ着地が。
「甘いよニーサちゃん。私もパワーアップしてるんだよ」
耳元で声が聞こえてきた。
人間の言葉を話せる魔物?
それにわたしの名前を知っている。
あれ?落下速度が落ちた。
(わたしに巻き付いている布がわたしのことを守ってくれているの?)
自分に起きている状況がさっぱりわからない。
どさっ
想像よりも遥かに優しい衝撃で着地する。
ばさっ!
体に巻き付いていた布が剥がれ、太陽の光に目が眩む。
さくらの香りが鼻腔をくすぐる。
「痛ぅぅ。何が起きたの……まったく……」
さくらの花びらの絨毯から身を起こす。
誰だかわからないけど攻撃してこないっていうことは敵対する気はないのだろうか。
視線を地面から上げると、冒険者のテンプレートな装備を纏っている姿が目に入った。
二本の足と二本の腕。完全に普通の人間だ。
でも、たしかに翼は生えていた。
人に翼はない。
だから、こいつは決して人間ではない。
「ねぇ。あなたって一体誰なの?わたしのこと知っているみたいだけど…………!」
さっきまでわたしに巻き付いていたそのマント……見覚えがある。
その美しい銀色の髪。よく知っている。
「うう……ばかぁ。わたし……待ってたんですよ……ううぅ……どうしてくれるんですか。待ちすぎて……待ちすぎて……わたし、オバさんになっちゃったじゃないですか。それなのに……あなたは……昔のままの姿で。ズルイですよ。くうっ……うっ。あなたには話したい事が沢山あって。会わせたい人もいて。新しい家族も出来て。あなたはいつもそうです。連絡の一つもよこさないで、あなたの事を心配している人たちのことは放ったらかしで……うぐっ。許しませんからね。他の人が許しても、わたしは許さないから……許さないんだから……」
「ははは。興奮すると、その一気に話しちゃう感じ。前と変わらないね。よかった。元気そうで。ふふふ」
「ひっく……そんな事よりも言わなきゃいけない事……ぐす……あるんじゃないですか。わたしの事……こんなに泣かせて。罪悪感とかはお持ちじゃないようですね」
「ごめんごめん。ただいま。ニーサちゃん」
なんでこの人は、こんなに軽いんだ。
ぐちゃぐちゃになっちゃっている……ボロボロ泣いているわたしがバカみたいじゃないか。
文句を言ってやろう。これは大クレームだ。
「おかえりなさい……おかえりなさいフレデリカさーん‼︎わぁぁぁ!うわぁー!」