フレデリカ その1
「いってらっしゃい。フレデリカ気をつけてね。ホーク。フレデリカのことお願いね」
「ああ。お昼くらいには戻るよ。いってくる」
たくさんの花びらが舞っている。
舞い落ちる花びら達は地に舞い降り、地面を美しいピンクに染め上げる。
この花の名前を『さくら』という。
「あの子が帰ってきた時にビックリさせてあげよう」
そう言って、わたしの親友のタマヨリちゃんが一本の苗木を持ってきてくれた。
そして、あの人から贈り物として譲り受けた屋敷の居間からも見える場所を選んで植えてくれたのだ。
あれから六年。
さくらの木は大きく成長して、この季節になると綺麗な景色を見せてくれるようになった。
そして、長いの年月のあいだにはいろいろなことがあった。
やっぱり一番大きな出来事は赤ちゃんを授かったことだ。
わたしが愛するあの人との娘。
名前は……そう。わたしの大好きな人から名前をもらうことにした。
『フレデリカ』
以前は『フレデリカ』という名は、忌まわしき恐怖の名であった。
しかしアクワ国が滅んだ今。忌まわしきものとしてのカテゴリーから解放された。
その名付けに関して、夫であるホークも賛成してくれたし、娘の誕生を心から喜んでくれた。
ピンクに染め上げられた道を最愛の夫と娘が仲良さげに歩いていく。
今日はお弁当を持って二人でピクニックだ。
手を繋いで花びらの道を歩いている。
たまに吹く風が花びらを巻き上げ、二人を包み込む。
花の吹雪が二人を連れ去ってしまうのではないか、と変な妄想を考えて不安になってしまう。
絶対にあの人のせいだ。黙って置いていかれた事の体験がトラウマになっている。
まったく。いつになったら帰ってくるのやら。
このままだと、お婆ちゃんになってしまう。
でも、必ず戻ってくると言っていた。
だから、わたしは信じて待っている。
ホークも同じ気持ちだと思うし、早く小さな方のフレデリカにも会わせてあげたい。