努力の賜物
グツグツグツ……
鍋の中のシチューが部屋の中に食欲をそそる香りを振りまいている。
「あぁ、また多く作りすぎた」
あの日。あの告白しようとした夜から一ヶ月が過ぎた。
帰還してからホークが私の部屋に来ることがなくなった。必然的に食事は一人でとることが多くなった。料理は一人分だけでいいのに、つい多めに作ってしまう。
正直言って淋しい。強がりたいのに思い出そうとすると泣きそうになってしまう。
一緒に出撃する日もあるけれど、必要最低限の会話しかしていない。
こんなに苦しいならコンビも解消したい。
(ホークのバカ……)
ビィー
来客を知らせるインターホンが鳴った。
(もしかして……ホーク?)
淡い期待をよせてインターホンの応答ボタンを押す。
しかし、モニターに映し出されたのは黒髪ロングの女の子だった。
「なんだ、シャルか」
「ちょっとフレデリカぁ。なんだとは何よ。落ち込んでいるからと思って来てあげたのに。もう帰る」
モニターに映る少女がこちらを画面越しに睨んでいた。
「ご、ごめん。いま開けるから待って」
ロックを外し扉が開くと同時に、怒ったままの表情の少女がズカズカと部屋に入ってくる。
「はい!これおみやげ。おじゃまします。ご希望の相手じゃなくて申し訳ございませんねぇ」
あきらかに不機嫌そうだ。
彼女はシャルル・フォスター。私と同じタンクだ。
階級は一級。一緒に出撃する事はないけど、彼女は戦友であり一番の親友だ。
知り合って一年くらいかな。
「あっ、チェリーパイ。さすが大親友。私の好みがわかってるなー。大好きだよ」
「大好きなのはチェリーパイの方でしょ。まぁ、いいけど」
不機嫌そうに、ドカァとソファーに腰を下ろす。
「そんなことより聞いてー!」
不機嫌そうな表情から一変、目をキラキラさせて立ち上がる。
「私ね!特級に昇進する事になったよ!この前のキャパテストで魔法力の最大が大幅に上がっていたみたいなの。来週から最終調整の合宿があって、そのあと実戦投入だって。これで私も魔法戦車に搭乗できる。もしかしたらフレデリカの護衛任務とかもあるかもよ」
「えっ⁉︎ほんとに⁉︎すごい!すごい!今日お祝いしようよっ!」
親友の嬉しい事は自分も素直に喜べる。
どうやら多めに作ってしまったシチューも無駄にならなくてすみそうだ。
「フレデリカの化物みたいな力にはかなわないけど、これで私も敵と戦う力が手に入る。見ていて。私頑張るね」
「私も頑張る!シャルに追い抜かれない様に気合い入ったよ。あと『化物』とか言うな。ふふっ」
言葉選びは最悪だけど、日頃から努力をして成長しているシャルに褒められると自分も認められた様で嬉しい気持ちになる。
「さぁ、お祝いしましょ。ご飯まだでしょ?いま用意するね」