叡智の遺産 その4
「フレデリカ様……フレデリカ様……」
真っ暗な世界の闇の中から声が聞こえる。
「フレデリカ様……何故答えてくれないのですか?」
この感じ……この状況……理解できた。
これは叡智さんの『意思を持った残留思念』。
でも、ほとんど消えかけている。
「なんで……なんで命を懸けてまで私なんかを助けたのよ!どうせ『主の生命が優先だから』とか言うんだよね⁉︎」
私ってば、なんて意地悪で性格が悪いのだろうか。
違うとわかっているのに。
そんな私を分かっているかのように笑う声が聞こえる。
「まったくフレデリカ様は。相変わらず素直じゃないですね。でも、逆の立場でも同じ事したでしょ?あたし達は家族じゃないですか。『剣』や『盾』の二人も同じ理由で自らを犠牲にしてまで助けてくれたのですよ」
それも理解している。
「さて。あまり時間もないので本題の話をいたします。あの天使を滅ぼす方法。先程、勇者たちが天使の体を分断したものを簡易的にですが分析をしました。すると落下してきた下半身部分に天使の魂のエネルギーがあり、頭や胸の上半身部分には何も残っていない抜け殻の様になっていました。この状況から推測出来ることは、あの天使は自らの『魂』の居場所を好きな場所に移動できるということでしょうか。簡単に言うと、いくら体をバラバラにしようが、分断されたパーツに逃げ込み、そこをベースに体を再生出来るということです。ここまで言えば賢明なフレデリカ様ならわかりますよね?」
つまりは強力なエネルギーで、跡形もなく消しとばしてしまえばいいということだろう。
「さすがフレデリカ様。その通りです。そしてフレデリカ様は、それを出来る手段を持っている。そして奇跡的に使える条件も揃っているのです」
まったくこの子は……
自分は消えてなくなってしまうのに。
残った人たちの心配ばかりして。
「叡智さん!このまま『意識』だけでも残れないの⁉︎私の中にいてくれていいから!あなたがいなくなったら、私ひとりぼっちになっちゃう!嫌だよ……いかないでよぉ……」
「フレデリカ様……あたしら聖騎士は天使と一緒で、再利用みたいな感じで甦えるのです。まぁ記憶とかは消されてしまうのですが。でもフレデリカ様とは再び出会える気がするんですよ。だから、その時はまた家族にしていただけますか?また一緒に楽しく生きてみたいです……もう。不覚にも感慨深くなってしまいましたよ」
「素直に泣いているって言いなさいよ……ううっ」
「じゃあフレデリカ様とお揃いですね。顔は見えないけど、涙で顔がぐちゃぐちゃですね。あぁ……もう限界みたいです。フレデリカ様……どうか……あたしが大好きな……この世界を救ってください。フレデリカ様も。精一杯生きてください……ね」