叡智の遺産 その3
あれ?
でもなんだろう……この違和感。
何かが違う。
今までの天使は、斬った場所から光になって消えていった。
でもこの天使は……
何か変だ!
『みんな!気をつけて!まだ終わっていないかもしれない!』
あれ?声が届いていない。反応がない。
…………そうだ。これは叡智さんの記憶。私の声は届かない。
まずい!まずいまずいまずい!
天使の体はどこ⁉︎
嫌な予感が頭をよぎる。
それと同時に視界の右端を何かが高速で通り過ぎていった。
背後から二つの激突音が響き渡る。
地面が激しく揺れた。
『スパーク!リンク!」
地面が抉れ、そこには二人の勇者が倒れていた。
息はしているが、地面に体がめり込むほどの衝撃だ。間違いなく重症。早く治療しないと。
ニーサちゃんは?
先ほどまで倒したはずの天使と黄色の勇者がいた場所に注意を戻す。
そこには……
頭の片隅にあった最悪の状況を遥かに超える光景があった。
『ニーサちゃん‼︎』
さっき見た光景とは逆の状況になっていた。
黄色の勇者の背中から槍の先端が突き出ている。
「先程のお返しですよ」
天使の口元が邪悪に歪む。
血の雨が降り、赤い飛沫痕が地面に広がっていく。
「そら。堕ちなさい」
天使の強烈な蹴りが、黄色の勇者の体を地面に蹴り落とす。
『ニーサちゃん‼︎叡智さん!私の事はいいからニーサちゃんのこと助けてよぉ!このままじゃ、地面に叩きつけられてニーサちゃんの命が!私じゃ彼女に触れられない!』
私の声が届かない事は理解しているが叫ばざるにはいられなかった。
黄色の勇者が地面に叩きつけられる寸前。
一つの影が彼女を受け止めた。
「まったく。ギリギリだよ。すまないニーサ。大丈夫だよ。急所は外れている。待ってろ。アイツを倒してくる。おい天使!よくも妻をやってくれたな。許さんからな絶対」
ホークだ。
ニーサが愛する旦那様。
ああ……ホーク。
あなたがいてくれてよかった。
それに急所は外れているみたいだ。よかった。それでも重症に変わりはない。一刻も早い治癒が必要だ。
あれ?
次第に景色が暗くなっていく。
狭まっていく視界の中で最後に見えたのは、治癒された私の体。
焼け爛れた肌も元通りに治されていた。
叡智さんが、私の体から身に付けていた焼け焦げた装備を剥ぎ、新品のローブを巻き付ける。
大切な友人たちの命を懸けた行動によって、私の身体は長らえることが出来たのだった。