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ゴッドブレス 魔法戦車と戦少女  作者: きるきる
第一章 魔法戦車と魔法少女
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帰路 その2

 仰向けで寝そべり星に見惚れる。

 背中を地につけて空を眺めるなんていつぶりだろう。

 闇に包まれる夜にも、こんなに美しいものがあるなんて。基地の中での生活で忘れてしまっていた。

 少しだけ左に視線を動かし、隣にいる上官の表情を盗み見た。

 彼も視界いっぱいに広がる星空に見入っていた。

 ホークも、こんなにもゆっくりと時間を過ごすのは久しぶりなのかな。一緒に過ごす時間が増えて、ホークの激務具合がわかる様になった。国の重要機関のボスなのに前線にまで出撃するなんて普通に考えるとありえない事だ。

 戦場から戻ると、そのまま会議なんて当たり前になってきたし。


「フレデリカ。寒くないか?」


 私の密かな視線に気づかれた。


「うん。大丈夫。でも、ちょっとだけ風が肌寒いかも」


 そっと体をずらし、そのままホークの腕を抱きしめるように腕を絡める。

 ホークは私の顔を見て微笑み、また空へと視線を戻した。

 あたたかい。ずっとこうしていたい。あの冷たい人殺しの機械の中には戻りたくない。


(あぁ……大好きホーク)


 胸の奥がギュウと締め付けられる。

 少しでもいいからホークの心に近づきたい。


「ねぇ。ホークって恋人とかいるの?好きな人とかいるの?」


 このザワザワしている心を悟られない様、ゆっくりとした口調で質問を投げかける。


「んっ?突然どうした?フレデリカがそんな話題振ってくるなんて珍しいな。知っているとは思うけ、あの多忙過ぎる生活じゃ恋愛とかは難しいよ」


 そっか。いないんだ。よかった。まだ私にもチャンスがある。


「あのね。私、好きな人がいるんだ」


 私何を言おうとしているの?どうしよう。気持ちが抑えられなくなってる。

 でも、いい雰囲気だしチャンスかも。満天の星空の下、腕を絡み合って。


 気持ち……伝えていいよね。


 また星が流れた。


(この人と一緒になりたい)


 星に願いをかける。

 時折り吹く風が背中を押して応援してくれている気がした。


「ホーク……私ね。あなたの事が……」


 何かに胸をぎゅっと締め付けられる。

 ドキドキで心が落ち着かない。

 体温が上昇して、じんわりと汗が滲み出てくる感覚がある。戦闘の時の緊張とは明らかに違う。初めて感じる緊張感だ。

 でもそれらの症状も、あと一つの言葉を発すればおさまるはずだ。

 きっと、幸せで温かな毎日が待っているはず。過去の忌まわしい記憶なんて彼が忘れさせてくれる。


「ホーク。あなたの事が……」


「フレデリカ待って」


 やっとの思いで紡ぎ出した言葉を遮られる。

 

「フレデリカ。君の今考えている事。心に感じている感情は勘違いかもしれない。最近、一緒にいる時間が増えたから気持ちが錯覚を起こしているんだよ。だから……」


 表情を変える事なく発せられた言葉が私のすべてを揺さぶった。

 彼の言葉の意味を考えるが、頭の中がグルグルと混乱し、考えている事がまとまらない。

 自分自身がパニックになっている事が自覚出来た。しかし気持ちが溢れてしまっている今、正常に戻す事は困難だった。


「ちょっと待ってよ!」


 今度は私がホークの言葉を遮る。

 いつもの『はぐらかし』じゃない。ホークの表情は、いままで見た事もないほど真剣なものだった。


「ひどいよ。私まだ何も言ってない。まだ何も伝えてない。それなのに、なんでそんな事言うの!」


 頬を、何かが伝って落ちていく。次から次へと、それは止まらなく流れ出てきた。


「それは……君が間違いで傷つくのが見ていられないから」

 

 私の事なんてどうでもいい。それに、この想いは勘違いとかじゃない。

 

「あなたに私の気持ちがわかるの?今もわかっていないじゃない!そんな言い訳で断られるより、私の気持ちを受け止めてから断られた方がいい!やっぱり私がタンクだからでしょ!所詮私なんて使い捨ての固形燃料よね。あの時、あなたなんかに助けられなければよかった。あの時死ねばよかった……」


 パァン!


 頬に痛みが走った。

 

「そんな事言うべきじゃない。どんな境遇にいるにせよ、今この瞬間に命があるのなら精一杯生きるべきだよ。フレデリカ。君の命は、こんな戦場なんて場所で落とさせやしない。いつか必ず、君が心穏やかに安らげる場所まで連れて行くから」


 なんでこの人はこんな優しい言葉を平気で言うのか。残酷すぎる。


「振ったばかりの相手に、そんな事言うのやめてよ。だから勘違いしちゃうんだよ。私バカみたい。勝手に両想いとか思っちゃって。告白までしようとして」


 あぁ、駄目だ。涙が止められない。


「違う……違うよフレデリカ。オレは……すまない」


 ホークは背中を向けて私から距離をとる。

 彼の肩がかすかに震えている気がした。


 その晩、私は眠る事はできなかったが、日が昇るまで、ホークの姿を見る事はなかった。

 




 

 

 

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