大天使 その5
「よ……よかった。間に合った……げほっ!」
叡智の聖騎士の顔が間近に見えた。
どこかやつれている様に見える。
そして手足や体全体に感覚が戻ってきている。
わかる。私はまだ生きている。
叡智さんが治してくれたのだろうか。
衣服が燃えて焦げ臭いけど、体には火傷や傷の痕は残っていなかった。
「ダメじゃない……あなたまで死んじゃ」
「寝ぼけている場合じゃありませんフレデリカ様……完全治癒魔法で全ての傷と火傷を治してあります。あまり説明している時間がありません。あたしの記憶を渡します。少しは役に立つかと思います。どうか……生き延びてください。あたしたちの分まで……」
何これ?
叡智の聖騎士の体から光が溢れ空へと上がっていく。
「何やってんのよ叡智さん?これって天使をやっつけた時な感じじゃない……ねぇ……嘘でしょ⁉︎止めてよ!そんなの嫌だよ!また独りぼっちにしないでよ叡智さん!」
あぁ。叡智の聖騎士の小さな体から何かが抜けていくのを感じる。
「フレデリカ様の身につけていた装備……ほとんど燃えてしまったので……魔術師用のローブ着せてあります。裸じゃ戦えないでしょ……ははは。それ便利なんで使い方は……あたしの記憶に入れておきます」
「叡智さん!叡智さん!駄目だよ!諦めないでよ!」
崩れ落ちる様に倒れる叡智の聖騎士を抱きとめる。
「えっと……もう伝えておく事ないかなぁ……あたしが居なくても大丈夫でしょうか……フレデリカ様……困った時は一人で突っ走らずに……誰かを頼るのですよ……」
抱きしめていた腕が軽くなった。
聖騎士の身体は光の粒子となり弾けて天に昇る。
その中で、ひときわ明るい拳くらいの光の玉が吸い込まれるように私の中に入ってきた。
この感じは紛れもなく叡智さんの魂。叡智さんの想い。
そして……
それは叡智の聖騎士の遺言だった。