エンディング…… その5
「やばいよぉ!ホントどこから来るかわかんない!怖い怖い!」
初めて出会った時よりも、確実にステルス度合いが上がっている。
目の前で認識していても、次の瞬間には姿を見失っている。
魔力感知や闘気で探しても反応がない。
彼女は自らの生命反応ですら、完全にゼロにすることが出来るということだ。
「大丈夫ですよフレデリカさん。痛いことはしないですから」
耳の中に吐息が吹きかけられる。
「きゃあ!だからぁ、いきなり耳に息吹きかけるの駄目だから!あと、よくわからない魔法……あう!だから、その感覚植え付ける魔法もよして!」
両腕にブツブツの鳥肌が立っている。
こんなに超短いスパンで鳥肌が立ち続けるなんて。
自律神経が馬鹿になるんじゃないだろうか。
数分後……
タマヨリと私の二人は仲良く地面に這いつくばっていた。
腰が抜けて立ち上がれない。
「ではわたしはこれで。せっかく早起きしたから朝食でも用意します。フレデリカさん。キッチンかりますね」
雲一つなく晴々とした青空が広がっていた。
朝練で快勝という名の『仕返し』を成し遂げた黄色の勇者の朝食は絶品で、ここにいる全員の舌を満足させ、そして会話をいつも以上に弾ませていた。
ホーク、三人の勇者、叡智さんと盾さんの聖騎士たち。それに『ショウナンの国の巫女』タマヨリ。彼女も、ずっと前からこの場所にいたかの様に、この輪の中に溶け込んでいた。
彼女は元々、好感を持てる人懐っこいさを持ち合わせている。
正直、羨ましいなぁと思う。
傍に立て掛けてある刀を見る。
閃光さんの魂のこもった名刀『閃光』だ。
きっと閃光さんも、この光景を見て喜んでくれていると思う。
朝食が終わって一息ついてから約束の組み手大会が始まった。
スパークとリンクは、技もスピードも大幅に上がっていて以前のものとは全くの別物だ。
あの頃は勇者の力に目覚めたばかりで不完全だったのかもしれない。年月を経て、体に勇者の力が馴染んできたのだろう。
初見であるタマヨリの攻撃に的確な技で対応している。
ニーサちゃんは……えーと、私の異名である『化け物』の名を継いでもらおう。
ホークは隻腕である不利を足技でカバーしていた。
ダンスの様な動きで予測不能な位置に蹴りが飛んできたり、空中での回し蹴りだったりとトリッキーな連携で攻めてくる。
私のせいで、彼の人生をよくない方向に大きく変えてしまった。でも、ホークが前向きに生きていてくれて安心したし、とても嬉しい。
今度、いろいろな蹴り技を教えてもらおう。
舞い散る汗が太陽の光でキラキラと輝く。
太陽はいつの間にか真上の位置にきていた。
稽古に夢中で、時間が経つのを忘れてしまっていた。
そろそろ、お昼の準備をしようかな。
朝食はニーサちゃんに任せてしまったから、昼食は私が準備しよう。
あれ?
日の光が眩しくて、はっきり見えないけど空に何かある。
「人間?」
断定はできないけど、人の形をしたものが太陽に重なっていた。
みんな気付いていないけど錯覚かな……
ドグァ!
腹部に重い衝撃が走る。
何か硬いものが勢いよくぶつかってきた。
息がつまる。
「あぐっ」
吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。
「なんなの……痛ぁ……何なのよ一体……えっ?これって盾さんの……」
腹部に張り付いているのは盾の聖騎士の攻撃用の盾魔法。
「痛つ……盾さん何なのよ……きゃあ!」
目の前が真っ白な光で覆われる。
その光の中のものは例外なく粒子となり消滅していった。
椅子、テーブル、屋敷が光に削り取られ消えていく。
その光の中に人の影が見えた。
「盾さぁぁぁぁん‼︎‼︎」
「申し訳ございませんフレデリカ様。皆様を逃がすのが精一杯でした。私はここまでみたいです。最後の聖騎士……叡智のこと。よろしくお願いしま……」
そこには光以外のものは残されていなかった。
地面が抉られてクレーターのように陥没している。
屋敷も半分くらいが綺麗に抉り取られていた。
盾の聖騎士がいた場所には、もちろん何も残っていない。
「いやぁぁぁぁぁ‼︎」
胸元にあった魔法の盾が消えていく。
盾に込められていた魂も徐々に消えていき、そして何も感じられなくなった。
「ほぉう。あれから逃れるとは。一匹だけ我が気配に気づいたのがいたな。そいつが他の奴らを逃したというわけか」
声のした方向の空を睨みつける。
「そんな……まだ終わっていないというの……」
天使だ。
全身を白い衣で覆われた人の形をしたもの。
この気配は間違いなく天使。
「まぁ、いいでしょう。どちらにせよ、あなた達の結末は変わらない。お待たせしました。これから起こる事が、あなた達の真のエンディングです」