家族愛 その2
私の両脇から寝息が聞こえる。
右側からは妹のような小さな女の子。
左側からは聖母のような優しい寝顔のお姉さん。
二人とも泣くことで体力を使い果たし、今はぐっすりと夢の中だ。
彼女たちは、私と出会う前から、閃光さんと三人ずっと一緒だったのだ。
そんな大切な人が突然いなくなってしまった。
彼女らの悲しみは計り知れないほど大きなものに違いないのだ。
こんな時こそ、私が彼女らの力にならないといけない。
でも良かった。私の家が無事で。建物を人目から隠していたステルス魔法は天使にも効果があったのだろう。
完全無傷で残っていた。
あんな殺伐とした瓦礫だらけの場所じゃ、二人の心の傷が癒えるわけない。
ここなら休めるベッドもあるし、調理もできて温かい食事も用意できる。
とりあえず今は休息を取るタイミングだ。
二人ともしばらくは、ここで待機していてもらおう。
その間は私が動けばいい。
もう脅威は去ったのだ。一人でも大丈夫。
明日はショウナン国の復興の手伝いに行こう。
本来は自分の国を助けないといけないのだろうけど、アクワ国は既に歴史に埋もれた過去の国だ。
それと、閃光さんが残してくれた刀も使いこなせるようにならないといけない。刀の使い方ならタマヨリが熟知しているだろう。
とりあえず今夜は休もう。
二人の手を握り目を閉じる。
隣に信頼できる人がいると安心する。
安心したら急激に睡魔がやってきた。
これなら今夜は深く眠ることができそうだ。
握っていた二人の手が私の手を握り返してきた。
起こしちゃったかな。
でも二人とも何も言葉を発しない。
きっと、お互いに気持ちが通じ合っているからだろう。
言葉がなくても通じ合える。
だって……私たち家族だから。
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夜が明け、海と空の境界線から太陽が顔を出す。
二人を起こさないように、そっとベッドを抜け出す。
ショウナン国に行くための身支度を整える。
泊まりじゃないから軽装でいいかな。
閃光さんが残してくれた長刀は無限空間に収納する。
そうだ。やらなくちゃいけない事があった。
信用を失った私は外出する前に必ずやらなければいけない儀式ぐある。
2階にある、来客用のベッドルームのドアをノックする。
「ニーサちゃん。寝てるよね?ごめんね入るよ」
一応、こういう場合の時には入室していいという本人の許可は取得してある。
音が立たないようにそっとドアを開き部屋に入る。
カーテンの隙間からの朝日で、ベッドにある膨らみが確認できた。
ゆっくりと近づき、顔を覗き込む。
可愛いなぁ。
大人に成長しても、この愛くるしい可愛さを維持できるなんて……羨ましい。
「吐息がこそばゆいですよフレデリカさん。そんなにマジマジと私のこと見つめて。ほんとうに私のこと大好きなんですね」
「きゃあ!ち、ちょっと。起きてたのニーサちゃん」
なんの前触れもなく眠り姫の瞳が開いた。
暗闇でコレは心臓に悪い。
「こんなに接近されたら誰だって気付きますよ。もう出かけるんですね。ちゃんと私との約束守って会いに来てくれたんですね。ありがとうございます」
信用のない私は彼女に約束させられた。
『外出する時は黄色の勇者に声をかけてから出かけること』
おそらく過去におこした行動を根に持っているに違いない。
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