家族愛
「はぁ……はぁはぁ」
両腕が肉離れで上がらなくなった。
慣れない重くて長尺の刀を握る手のひらも豆が潰れ出血している。
長時間にわたって慣れない刀を振い続けたことにより、体が壊れ始めてきた。
「痛たた。もう駄目だぁ」
大地に大の字に倒れ込む。
これ自力じゃ帰れないかも。
精神的にドン底まで落ちそうだったから無理矢理身体を動かした。
ドン底までは行かなかったけど、心の中がスカスカで何だか虚しい。
天使は全て倒したのに、こんな結末だなんて。
この異質なまでに長い刀。
閃光さんは包丁一本にしても、全力で魂を込めて打っている。
私にはまだこの長尺の刀を上手く扱えないけれど、この刀から閃光さんの意思を感じることはできた気がする。
「閃光さん……大丈夫だよ。私はもう負けないし挫けない。閃光さんの好きなショウナン国も守るから」
握力を失った両手に力が入る。
「お迎えにあがりました。どうですか?少しは気持ち……落ち着きましたか」
視界に入らない位置から声が聞こえてきた。知っている声だ。
すごいな。この子は常に冷静だ。心の中は絶対に穏やかでいられないくらい乱れているだろうに。
「ありがと叡智さん。来てくれたんだ。一人じゃ帰れないなぁって、ちょうど困っていたの。助かったわ」
声の聞こえて来た方に向かってお礼の言葉をとばす。
「フレデリカ様……閃光の為に泣いてくださり……ありがとうございます」
まったく。無理しちゃって。見た目は子供なんだから、おもいっきり泣いたって恥ずかしくないのに。
「あたりまえだよ。大切な家族なんだから。叡智さんこそ。閃光さんのこと……そんなふうに大切に想ってあげてるじゃない」
抱きしめてあげたいけど身体が動かない。こまった。
「フレドリカ様。回復します」
頭の上の方から小さな手が視界に現れた。
その小さな手に紫色のオーラが現れる。目に見えるほどの強力なエネルギーだ。
そのまま、そっと私の額に触れる。
瞬間、紫色に輝くエネルギーは私の全身に広がり包み込んだ。
「気持ちいい……」
身体中の痛みが、ゆっくりと消えていく。
それに、心の中も優しい何かで満たされていく。
あたたかい……これは家族愛。
仮初めじゃない。本当の家族に私たちはなっていた。
枯れたと思われた涙が溢れてくる。
完全に治癒された身体が勝手に動いていた。
叡智の聖騎士の小さな体を力いっぱい抱きしめた。
「フレデリカ様は……ほんとうに泣き虫ですね……ほんとうに……」
「何よ。あなただって泣いているじゃない。こんな時くらい我慢しなくていいのよ。はい。胸かしてあげるから。いらっしゃい」
この子がこんなに感情を表に出すのを初めて見る。
「あたしは……あたしは大丈夫です……そういうこと言うと心が挫けますから……うぅ……」
たまには甘えればいいのに。
「叡智さん。怪我治してくれてありがと。今日くらい私に甘えなさい。ねっ」
小さな身体をギュと抱きしめると、沈着冷静な聖騎士は堰を切ったように泣きじゃくった。




