三聖騎士
世界を救い、英雄となった銀髪の神の使い。
人となった彼が天命を全うし、そして転生せし時。その者をこの世界から見つけ出し、供として生涯従事する。
それが三聖騎士。
彼らは英雄に近い巨大な力をもつ。
剣の聖騎士。
主の前に立ち塞がる全てのものを排除し、道を作る者。
盾の聖騎士。
主に降りかかる全ての災厄から主の御身を守る者。
叡智の聖騎士。
主の欲する知識、邁進を補佐する者。
そして、英雄と三騎士の役割は世界の均衡を保つことにある。
彼らは神から選ばれし正義。
つまり、彼らに滅ぼされし者は必然的に悪であったという事になる。
「……で、その話によると。いま対立している我らは悪人という事で滅ぼされる事になるわけだ。参った参った。こちらとしても正義を貫き信じて行動しているのだけど」
盾の聖騎士の話を聞き終えたホークが反論……とはいかない程度に呟いた。
「それで、いかがでしょう?私達と一緒に南に来る気持ちにはなりましたか?」
相変わらず、人を包み込む様な優しい口調で語りかけてくる。気を抜くと彼女の勧誘に乗ってしまいそうだ。盾の聖騎士恐るべし。
「すまないが理由もなく祖国を裏切るわけにもいかないんだ。何か意味があれば心置きなく亡命できるのだが」
自分の国を捨てる気なんてサラサラないくせに、いい加減な発言を自然に発するこの男も恐るべし。
この男には盾の聖母様の慈悲深くお優しいお言葉も全く効果がないようだ。
「えーそうかなぁ?こちら側に来る理由あるじゃん。ほんとうは自分でもわかっているくせに。そんなに強いくせに平和主義なんだね」
こちらの小さい聖騎士は、きっと何も考えずに言葉を発している。無邪気だ。叡智の聖騎士。無邪気すぎる。
「ちょい小さいの。勝手に人の心読むなよ。そういうのをプライバシーの侵害って言うんだよ。まわりの大人は教えてくれなかったのか?まったく」
幾度も心の中に踏み込まれ、不機嫌を全開で表へ放出する。
あんな小さな子に大人気ない。
「ちょっとぉ!また子供扱いしたなぁ!あっ、今あたしの事、お菓子で買収できるとか思っただろう。そんなんで、あたしの心が動くと思っているのか……って、こらぁ!ポケットから飴玉を出すな。人の話を聞いているのかぁ!あと盾の姉ちゃんも無闇に謝罪するなぁ」
うわぁ。ホークってば、確信犯で飴玉出してきた。意地が悪がすぎる。
それに『まわりの大人』にあたる盾の聖騎士の人も本当に謝っている。気のせいか、なんか楽しそうなんだけど。
結構大事な話をしていたと思っていたのに。シリアスな場面が台無しだ。
「少し話が脱線してしまいましたが、あなたの意思はわかりました。この盾の聖騎士である私が聞き届けました。剣の聖騎士にも伝えておきます」
ちなみに、ちょっと前に遭遇した『閃光』と名乗った剣士が剣の聖騎士みたいだ。
あれっ?そういえば……
「あの、ちょっとお聞きしていいですか?」
今まで蚊帳の外だった私の発言に、皆の視線が集まる。
「その、剣の聖騎士は『閃光』と名乗っていましたが、あなた方二人のお名前は何というのですか?」
盾と叡智の二人は、ほんの一瞬、固まったあと顔を引き攣らせた。
「い、いえ、彼は特別なんですよ。暇つぶしに読んだ書物……どこかの国の武芸書本なんですがちょっと感化されてしまったみたいで。本当は私達三人は名を持たないのですが……」
あっ……なんか察してしまった。
彼はあれなんだ。「若さ故のなんとか」ってやつなんだ、きっと。
「コ、コホン。では今回はあなた方を見逃します。この後の人生も、楽しく充実した日々を送りたいのであれば私達の国へ来るか、もしくは戦いから身を引いて下さい。我ら三世騎士が本気を出せば、あなた方の国を、一晩で歴史に埋もれさせる事など容易いのですから。それでは」
叡智の聖騎士のちからだろうか。次の瞬間、二人の騎士は光の帯を引いて南の空へと消えた。