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ゴッドブレス 魔法戦車と戦少女  作者: きるきる
第五章 ゴッドブレス
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番外編: 黄色の勇者の独白 その2

 

 『あの人』が居なくなってから七年の時が過ぎた。

 勇者の力を授かったけれど、比較的平和な世の中では勇者の力なんて必要不可欠じゃない。

 普通の人より、ちょっと力が強いだけだ。

 ほとんど普通の人と変わらない私は、生きる為に生活費を稼がないといけない。だからギルドで依頼をこなす毎日を過ごしていた。

 生活するだけなら普通に職を見つけて生活すればいいだけだ。でも私は『あの人』を見つけたかった。

 あえて遠方の依頼を見つけ、その依頼を積極的に受けた。

 各地で『あの人』を探したけど手掛かり一つ見つからない。

 すでに国を出てしまったのかもしれない。

 


 『あの人』が旅立って二年が過ぎた時。

 私は一人の男性と結ばれた。

 隻腕の剣士ホーク。

 『あの人』が愛していた人。

 ホークも『あの人』を愛していた。

 でもホークは『あの人』に負い目があるみたいで、一定の距離を保って接していた。

 心の底から好きだったくせに。自分の気持ちを心の奥底に押し込めるのに必死で。

 だから私の気持ちに気付かないんだ。

 あの人たちの過去に何があったのかは今だに分からないけど、私が割り込んで入ってはいけないことは分かっていた。


 『あの人』が私の前から去り、大きな心の支えの一つを失った。

 『あの人』が居なくなった後も、ホークへの気持ちを押し込んでの毎日を過ごした。

 ホークも心の中の大きな存在を失って傷を負った。そんな彼に私の気持ちなんて受け入れる余裕なんてなかったと思う。

 そんな我慢で忍耐な日々を送るのを耐えることは、私には辛過ぎる毎日だった。

 限界が来た時、私は離れた森の中で稽古と称して剣を振るった。泣きながら声を張り上げ、見えない敵を斬りきざんだ。

 体力も涙も尽きて地面に倒れ込む。


「愛してあげて」


 『あの人』は、そう言って自ら身を引いた。

 そして、ホークと一緒に過ごす相手を私に譲って姿を消したのだ。

 でもこの時の私は、まだそれを出来ていない。

 ホークは私を育ててくれた父親でもあり、この世界を生き抜く為に剣術を教えてくれた師匠でもある。

 こんな関係で過ごしてきた私が、彼の伴侶になれるだろうか。

 『あの人』たちのせいにしてきたけれど、結局は私に踏み出す勇気がなかっただけだ。

 それに気付いた時。私には既に立ち上がる気力はなくなっていた。

 そのまま地面に仰向けに倒れたまま、辺りは夜の闇に包まれた。

 もう……どうでもいいや。

 このまま……この森で朽ちるのも。

 きっと獰猛な肉食の獣が、私を体ごと綺麗に片付けてくれる。

 仲間やホークの顔が浮かんでくる。

 もちろん『あの人』の姿も。あの美しい銀色の髪に触れた記憶が甦る。これが走馬灯ってやつかもしれない。


「ニーサー……」


 遠くの方から私の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 ホークだ。

 間違いない。

 聞き間違えるはずがない。

 だって……こんなにも大好きなんだもん。

 枯れたはずの涙が溢れてきた。

 木々が空を遮り、星の光もここには届かない。

 深淵の闇。

 私のことを見つけることなんて出来るわけがない。


「ニーサっ!」


 突然、目の前が明るくなった。

 ランタンの光。

 見つけてくれた……


「し……師匠」


 どうして……どうして辿り着けたのだろう。

 ほとんど光の届かないこの場所に。

 

「ねぇ……どうして()()がわかったの……私しか知らないはずなのに……ううぅ……」

 

 嗚咽が抑えられない。

 泣いちゃだめだ。彼に心配をかけてしまう。


「すまないニーサ。ニーサが……きみがこの場所で悩んでいたことは前々から知っていた。きみが……悩んでいた事や君の気持ちも知っている……」


 嘘……そんな……


「ひどいよ……全部知っていて私のこと放っておいたってこと?私の()()()()()()ところを黙って見ていたってこと?だったら今だって放っておいてくれたらよかったのに……うう……」


 彼は言った。


「自分みたいな罪を背負う人間は、きみに相応しくないと思っていた。自分じゃニーサの事を幸せに出来ない」


 何それ?そんなありきたりな理由。


「ふざけないでください!そんな理由!私には関係ない……」


 そうだ。そんな言い訳私には関係ない。


「私は……私は……」


 そう。関係ないのだ。


「あなたのことが大好きです!愛しています!」


 感情が制御出来ずに爆発してしまった。

 涙がとまらなくて瞼が痛い。

 

「わぁぁぁ うわぁー!」


 好きな人の前で、こんな醜態を晒すなんて。

 やっぱりだ。この人には『あの人』が、相応しいのだ。

 私みたいな部外者は関わってはいけなかったのだ。


「……!えっ⁉︎」


 抱き起こされた。

 そして、そのまま力一杯抱きしめられる。

 今私は、大好きな人に抱きしめられてた。


「ごめんニーサ。オレは……ずっとフレデリカのことで歩みを止めてしまっていた。今日、ニーサが帰って来なくて……夜中になっても戻らなくて……何度も最悪なケースを考えてしまった。そうしたら体が勝手に動いていた。オレにとって、きみの存在が絶対に必要だったことに気付いてしまった。ニーサさえ良ければ……よかったら、この先ずっと一緒にいてほしい。愛している」


 この瞬間。

 私も彼も『あの人』から解放された。

 この形は『あの人』が望んでくれて……そして導いてくれた結末だ。

 

 


                        FIN


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