決着 その7
蒼の剣を中段の位置に逆手で構える。
このまま最大戦速で四人の首を斬ってしまおう。
空いた左手で自分に速度上昇の魔法を重ねがけする……
違う……この方法じゃない。
この子たちには恐怖とか苦痛を与えずに終わらせよう。
一級天使には発動しなかったけど、この子たちのレベルなら上手くいくはず。
『時間感覚延長』と『行動力増加』。それに『敏捷性上昇』
を自らにかける事によって、相手との時間の感覚をずらす。
彼女らからすれば、時間を止められて攻撃を受ける様なもの。これなら痛みや恐怖どころか、気付く間もなく全てを終わらせられる。
「これで……終わる」
重心を前方へ。
逆手に握った刃は水平に。
あとは魔法を発動させて突貫するのみ。
「ねぇ!ちょっと待ってよ!どうして私たち天使を殺すの?私たちは正しい事をしているのに!こんなのおかしいよー!」
一人の天使が叫ぶ。
あまりに理解出来ない主張に、蒼の剣を握っている右手の力が抜ける。
この子は何を言っているのだろう。
この世界の人たちに、あれだけ酷いことをしておきながら自分の行動には少しも疑問を持たないなんて。
「お願いだから、こんな事もうやめて下さい。もう自分たちの非を認めて、正しき裁きを受けましょう」
まわりの三人の天使も何も言わないということは、この子と同じ考えなのだろう。
「裁きを受けるのは私一人だけのはずなのに。なぜ関係のない人まで罰を与えるの?」
これは独り言。
この天使たちに言っても仕方がない。彼女たちには理解出来ないであろう事は先程の言動でわかる。
「だからフレデリカさん。今からでも遅くないですから。悔いて、純真に神の裁きをうけましょう。そうすれば……」
私がもつ技の連携で、最強のコンボを発動する。
もう天使の言葉はスローすぎて聞き取れない。
世界の全てが、ゆっくりと動いている……
いや、正確には世界がスローになったわけではない。私の反応速度が異常なほどに速くなっている。
今までと同じ加減で力を使っているのに威力が上がっている。天使との戦いで魔法の精度と威力のレベルが上がっている。
こんな不毛な戦いの中でも人は成長できるのだろうか。
皮肉なものだ。
地面を力一杯蹴る。
右手に四度の鈍い反動を感じた。
大丈夫。上手くできた。
パチン
この指鳴らしが魔力フィールドの解除のきっかけとなる。
その直後、背後で重たい何かが地面に落ちる音がした。
その数四つ……
「これで……」
全てが終わったのに、心が空っぽな感じがする。
頭の中でモヤモヤとした何かに対する怒りの感情が渦巻いている。
本当はわかっている。自分に対する怒りだ。
自分を殺してやりたい。
でも私には、まだ出来る事……やらなければいけない事がある。
自分の未来は、それが終わってから考えればいい。
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