決着 その4
天使との闘いに勝ったのに。なんだろう……この敗北感。
お城や民家、商店街とか全部なくなってしまって、普段なら見えない筈の地面の端っこが見える。
あの天使。徹底的に何一つ残さず破壊していった。
太陽が地平線に落ちていく。
空が真っ赤に染まっていた。
いつもなら『綺麗』とか『美しい』とか、ありきたりな感想が口から出るのだろうけど、今は血の色を連想させる空の色だ。決してそんなあたりまえな言葉なんか出てこない。
魔力フィールドを展開させ、辺りを探る。
フィールドの領域内に人の反応はあるが、生きている人は、一人も感じられない。
こんなに広い街なのに正真正銘、人っ子一人いない。
「こんなに多いと……お墓もつくってあげられない……ごめんなさい……ごめんなさい」
そうだ。一度ニーサちゃんのところに戻らないと。必ず戻るって約束した。これ以上彼女のことを裏切ると、本当に嫌われてしまう。
回復薬で体力も全快したのに体が重い。
「ニーサちゃんを探さないと……」
魔力フィールドの領域を一気に拡大させる。
「あっ……」
生きている人の反応を感じる。
逃げ延びた人がいてくれた。
少ないけど生き残っている人は確かにいる。
まだ希望は残っている。
彼らがいれば……彼らが生き延びてくれれば、きっとこの世界も立ち直れる。
なんか涙が溢れてくる。
この涙は、後ろ向きな涙じゃないから我慢しなくていいよね。誰もいないし……
「ぐすっ……ううっ……」
「何泣いているんですか?フレデリカ様」
後ろから声が聞こえた。
あれ?この声……知っている声。私の大好きな人の声。
最後に会ってからそんなに時間は経っていない筈なのに、もう何年も聞いていない気がする。
やばい……本気で、泣いちゃいそう。
あとから『泣き虫』だとか、からかわれるのが目に見えている。
「うわわぁ!えいじさーん!会いたかったよー!」
「何言ってるんです。あたしたちを置いてけぼりしたのフレデリカ様ですよ。しかもそんなに号泣して。相変わらず泣き虫ですね。精神的に強くならないと駄目ですね……ぐすっ」
そこには叡智の聖騎士が立っていた。
「うぅ……あなただって泣いているじゃない。人のこと言えないわよ……まったく」
よかった。無事でいてくれた。
彼女が無事なら安心だ。みんな生きてくれてる。
「よかったよー!」
小さな聖騎士の体を抱き寄せた。
そして、その小さくて華奢な体を力一杯抱きしめた。