機械式魔法戦車
タンクの名前の意味は『戦車』というところからきているわけではない。燃料タンクの『入れ物・容器』からきている呼び名だ。
兵士の中には、陰でタンクの事を話題に上げられる事は多い。もちろん悪い内容で話題の種にされる。
「あいつら呆けているだけで飯食っていけるんだからラッキーな生まれだよなー」
基地の中で耳に入ってくる陰口で一番多いものがコレだ。
何もわかっていない。
ただ座っているだけじゃない。
タンクは魔法エネルギーの放出をコントロールしているのだ。常に全開でエネルギーを送っていたら燃費が悪くなる。
それに、戦車に搭載されているメインの武装は、タンクの魔法をエネルギーに変換して撃ち出す仕様だ。
戦場のど真ん中でガス欠になったらどうする気なのか。
まぁ、軍は大体の活動時間を、測定とテストで把握しているのだろう。でも予定通りに帰還できるとは限らないのだ。
「ふぅ、着いたよフレデリカ。ほんとおつかれ。今回もよくやったな」
ホークが任務完了の安堵から、溜息とともに労いの言葉をかけてくれる。コックピットの制御パネルを操作するのが上から見える。
プシュー
溜まっていた気体が一気に吹き出す様な音を立て、私のカラダに繋がっていたケーブルが弾ける様に勢いよく分離した。
両手首と首の後ろの合計三本のケーブルだ。
それと同時にカラダを固定していたベルトと器具も外れ、私は自由になった。
このケーブルが外れた時の開放感はたまらない。
逆に接続する時はなんとも言えない感覚が全身に流れる。
タンクになる人間は必然的に自らのカラダをいじられる事になる。両手首とうなじ部分にマシンと接続する機器を埋め込まれるのだ。ヘッドホンのプラグを差し込む端子みたいな穴がカラダに三つできる事になる。
これは倫理的に非難され、現在も問題視される事が多い。たしかに人体改造されてしまうみたいでイメージは悪いかもしれない。
まぁ何はともあれ、この処置をする事によって『魔法』を備えた人間は、大抵の魔法製品を自らの力で動かせる様になる。
五級のレベルの人間は家庭の電化製品くらいしか動かせない。体に埋め込む機器も片腕の手首くらいで済む。
軍事車両を動かす為には特級くらいのキャパがないと厳しいといわれている。
ホークがハッチを開き外に出る。
「フレデリカ、頭気をつけて」
ホークか手を差し伸べて、狭いハッチから出るのを助けてくれる。
パーティーでエスコートしてくれる紳士みたいだ。普段の力を抜いた、やる気のない感じからは想像できない行動をする。意外と優しい。
「よいしょっと。ありがと。あとお疲れさま!」
ホークの胸に飛び込む様に車両から飛び降りる。
「フレデリカも。疲れてないか……って聖特級のフレデリカはこんな任務朝飯前だな」
まぁ、確かに。十二時間くらいの任務ならまだまだ余力はある。
ふり返りると、先程まで乗っていた機械式魔法戦車が泥だらけになって停車している。
長い戦車砲、無骨なキャタピラ。
動力を失った鋼鉄の塊は静かにたたずんていた。
格納庫内を見渡すと、他にも十両ほどの機械式魔法戦車が待機している。
ただ、私の車両と形が違う。
明らかに違うのは私の車両には腕が付いている。
主砲として装備されている『魔導砲』の少し下から腕が生えていた。部隊の中では「ダサい」ともっぱらの評判だ。こんなにカワイイのに。
他の車両に腕がついていないのには理由が二つある。それはパイロットの腕とタンクの魔法力の問題だ。
腕が二本増えた事により兵装を増やせたり、物を運搬できたりと非常に便利だが、ハイレベルの操縦技術が要求される。ああ見えて、ホークは我が国で最強のパイロットなのだ。
そしてもう一つの魔法力の問題。
これは単純で、搭乗するタンクに、腕を動かすパワーとスタミナがあるかどうかということ。
特級クラスでも、この巨体を動かすのに精一杯で、腕を動かす余裕などないのだ。
まとめ。腕付き機械式魔法戦車はホークと私の乗っているこの子だけ。
私たちだけの専用兵器。
「ねぇホーク、夕飯は私の部屋で食べない?たいしたものはないけどご馳走するよ」
夕食を誘うのは、ほぼ毎日のルーティーンとなってきている。
「いつも悪い。これから報告も兼ねた会議があるから……二時間後でもよかったらお邪魔するよ」
最近は、二人で一緒に食事をとることが……と言うより一緒に時間を過ごすことが増えた気がする。
「うん!待ってる。楽しみにしていて」
ウインク付きの笑顔をのこし、私は自分の部屋へと走り出した。
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