天使と魔王と黄色の勇者 その5
この左手に準備しておいたのは、身体強化『加速』の魔法。
対象の現在ある運動エネルギーを強制的にアップさせる。
私はそれを九倍の加速に無理矢理引き上げた。
天使を目標に定め放つ。
元からある加速力を掛け合わされ、彼は自分の力では引き出せないほどの速度に達することが出来るだろう。
前方から、もの凄い吸引力によって引き寄せられる。もしくは後ろから大きな風を受け、帆を張った船の様に加速させられる。
強制的に加速させられた天使からすると、そう感じるのかもしれない。
いずれにせよ、彼には自分を制御することは出来ない。
さぁ仕上げだ。
あとは右手に溜めてある魔法を、刹那のタイミングで打ち込むだけだ。
それは、たった一つの魔法。
『反発』の魔法。
文字の通り。対象をはね返す。
もちろん威力は重ねがけして数倍にしてある。
「タマヨリ流奥義……」
力はいらない。優しく、そっと背中押すように彼の背中に触れて発動させる。
進行している方向へ反発で弾き飛ばし、さらに速度を上昇させる。
これで、この技は完成する。
この高速連携に反撃なんて許さない
「反動裂波猛襲撃‼︎」
破裂音と同時に発生した衝撃波で周囲にある瓦礫や土が吹き飛んでいく。
地面は衝撃で削り取られ、浅いクレーターが生まれる。
技が炸裂した証だ。
天使は声一つ発することすら許されずに、吹き飛ばされる。
そして、その先には……
「蒼の剣!」
上空に待機させていた相棒に呼びかける。
バリバリバリバリ!
凄まじい落雷に似た音を発し、私の魔力によってアメシスト色に染まった剣は真下に向かい空を切り裂き、そのまま地面に突き刺さる。
蒼の剣が切り裂いた空間に闇が広がっていった。
吹き飛ばされた天使は、その深い闇の中に吸い込まれる様に消えていった。
最強天使の気配は一切感じ取れない。
完全にこの世界から消失したのだった。