天使 その8
あたりを見回す。
一番目の天使と初めて対峙した場所だ。
天使が腰掛けている柱も見覚えがある。
というか、寸分違わぬ姿勢で寸分違わぬ場所に、その天使は腰をおろしていた。
なんだこの既視感。記憶にある光景と一緒だ。
でも、包帯でグルグル巻きの右腕を見ればデジャブではない事を認識できる。
「おや。思っていたよりだいぶ早い帰還ですね。負傷した右腕は大丈夫なのですか?見たところ完治には程遠い様ですが。そんな状態で私と戦えるのでしょうか」
こちらに気付いた天使が口を開く。
完全に舐め切っている。
まぁ、前回の戦闘結果からすれば無理もない。
実際に、今の私なんて赤子をひねる様なものだろう。
だけど、私には策がある。
それよりも前回の戦闘から、どれくらいの時間が経っているのだろう。太陽の位置から、丸一日以上経っているのは確実だ。
天使は『早い帰還』と言っている。
そんなに何日も経っていないと思いたい。
いづれにせよ、ロスした時間で数多くの命が消えてしまったかもしれない。
ごめんなさい……私に、力が足りないばかりにみんなの生活が……
「他の仲間はどうしたのですか?私に挑むなら全員揃ってからの方がいいのではないですか。いいですよ。予定よりも早く、この国を滅ぼしてしまい私は時間を持て余していますから。待ってあげてもいいですよ」
仲間?
私に仲間なんていない。
私はひとりぼっちだ。
「どうしたのですか?何か話したらどうです。貴女が私の仲間を天界に還してしまったので、この世界を陥とすのに予定より時間がかかってしまいそうなのですよ。私の貴重な時間が浪費する事は勿体ないと思いませんか?貴女の会話から、何か新しい事を学べれば無駄な時間ではなくなるのです」
丁寧な口調が癇に障る。
「悪いけど、お喋りしてる時間はないのよ。でも、どうしても暇だっていうなら相手をしてよ。素手での格闘戦とかどうかしら?」
「なるほど。いいですよ。でも、その腕でどうするのですか?どう考えても、貴女が不利ですよ」
「そうね。そう思うなら手加減くらいしてくれてもいいのよ。万全の状態でも私はあなたに敵わないのだから」
「なるほど。私も、一方的に弱者を痛ぶるのは本望ではありませんからね。私も片手で相手をして差し上げますよ」
乗ってきた!これで勝利する可能性が、ぐっと上がった。
「ありがとう。紳士なのね。お手柔らかにお願いするわ。蒼の剣。ちょっとだけ待っていて」
青い刀身を優しく撫でる。
きっと、この子は私のことを心配してくれている。
「大丈夫だよ。心配しないで」
私の大切な相棒を空中へと逃がす。
「魔王フレデリカとやら。望み通り少しの間だけ相手をして差し上げましょう」
準備は出来た。
あとは、私が上手くやればいいだけ。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ。行くわよ!はぁぁ!」