天使 その1
「どうだ?俺の世話役として奉仕する事を許そう。そら跪け。俺の鎧に口付けをし、俺への忠誠とするがいい。コイツを使い、この世界の生物を殺し回らせれば効率がいい。他の天使共と差をつけてやる。これで最速階級アップだな」
なるほど。天使は他にもいるということ……つまりは他の地域や国にも、このアマヌマと同じ事態になっているという事になる。天使はこの世界を滅ぼす気なのか……
「忠誠を誓う前に一つ聞いていいかしら。どうしてこの世界の生物を殺さなくてはならないのかしら?あなたの口振りだと、人間を絶滅させる勢いじゃない」
「ほう。察しがいいな。その通りだよ。俺らはこの世界の生物を無に還し、ゼロから創り直そうということだ。それが全能の神の意思」
神様がこの世界を滅ぼす?
そんな事があるのだろうか。世界の均衡を平和的に維持してくれるのが神様だと思っていた。
それにしてもマヌケな天使だ。
ベラベラと勝手に情報を提供してくれる。
おかげで、こんなに頭に血が昇っているのに冷静に話が出来ている。
「おい魔族の女。役に立つのなら、この世界を滅ぼした後も生かしといてやる。せいぜい役に立て。見立てでは、そこそこ腕が立つのではないか?俺の目は誤魔化されんぞ。さぁお前の名を聞かせろ」
「あら。私って神様界隈ではそこそこ名の知れた悪者だと思っていたのだけど。自惚れてたのかしら。私の名前はフレデリカよ。フレデリカ・クラーク」
天使の顔色が変わった。
あら。やっぱり私の名前は知れ渡っているのかしら。
「ふふふふ……わはははは!お前が!お前がフレデリカかぁ!ツイているぞ!いきなりターゲットが出てくるとは。これで俺も特級天使だ!予定変更だ。この場でお前を殺すことにした!」
何?私の命が目的なの?
「あのね。勝手に話を進めないでよ。全然話が見えないのだけど」
「当の本人が何も知らんとは。呑気なものだな。お前の存在が世界を滅ぼすというのに」
私?私の存在のせいで滅ぶ?
何を言っているんだコイツ。
この眼下にある破壊された町も、私のせいって事?
「それにしても神も大袈裟だ。この程度の悪魔の為に。んっ?どうした。顔色が悪いぞ。そんなにショックか?」
いけない。冷静になれ。パニックになるな。
もっと話を聞き出さなくちゃ。
「フレデリカ・クラークよ。お前って天使崩れらしいな。魔の力を吸収して強大な力を手に入れて。なんか人間の勇者を差し向けたらしが全然役に立たなかったとか。それどころか和解して仲良くやっているようで。所詮は下卑た生物だな。我が神が滅ぼしたくなる気持ちも分かるぜ」
そんな……嘘だ。私のせいで大勢の人が犠牲になっているというの……
私がいるから……みんなの幸せが……
「ねぇ天使。いまこの場で私が死ねば世界は救われるのかしら。それでいいなら今すぐ死んであげるわ」
「いやいや。もう無理だろ。神は人間自体にも失望している。せっかく巨大な力を与えて勇者にしてやったのに役に立てんんような生物など滅んだ方が世界の為だ」
なんなのそれ。
私を殺したいなら私だけを狙えばいい。
神様は正しい者に慈悲を与えてくれるのではないの?
そんな理不尽なやり方を行使する神だったら…………
「もう一つだけ教えてよ……天使って死んだらどうなるの……」
「俺らは死なねえよ。下界で殺されても天界で再生されるからな。まぁ、そうなると二度と天界から出られなくなっちまう。退屈な時間が始まっちまうのさ」
「そう……よかった」
「じゃあな悪魔。魔王とか言われてたが、とんだ期待外れだ。光となって消え去れ」
天使の右手のひらがこちらを向いていた。
そこに聖なる光のエネルギーが収束されていく。
私自身そんなつもりはないのに、勝手に体がその光から逃れようとしている。拒否反応的なものかもしれない。
さすが相性最悪と言われるだけのことはある。