はじまり その4
タマヨリの瞳に涙が溢れていた。
今にも溢れ落ちそうなこの涙は『悔し涙』だ。
その悔しさには、この町の幸せな生活を壊した者への怒りがこもっている。私も同じ気持ちだから共感できる。
「わかった!こっちは任せて!聖騎士さん達が来ると思うから彼らにも手伝ってもらって。叡智さんとか回復も出来るから一緒にみんなを助けてあげて」
「ありがとフレデリカ。私も後から行くから、それまで持ちこたえて」
「大丈夫だよ。私は負けないから心配しないで。私だって怒っているんだよ。全部片付けてくるから。タマヨリ達は町のみんなを助けてあげて」
魔力フィールドを展開する。範囲は町全体。最大感度。
二箇所……町の二地点に、生命活動のない人間の反応を沢山感じる。
攻撃された場所だ。
あの攻撃で沢山の命が奪われた。
これ以上は好き勝手させるものか。
「捉えた!」
五百メートル先上空に、一つだけ他とは違う反応を感じる。
このエネルギー反応だけ極端に強い。
「タマヨリ。行ってくるね。みんなの事よろしくね」
意識を集中させ、一気にこの破壊の元凶の座標へと跳ぶ。
一瞬で景色が変わる。
真っ青な世界。清々しいほどの青に包まれた空間。
下にはアマヌマの町が見える。
でも、全てのものが薙ぎ倒され、そこに人が生活していた痕跡は残っていない。やったのは目の前にいるコイツだ。
銀色の鎧に包まれた男が立っていた。
髪は炎の様に赤い。
見た目は人間でいう二十代。若く見える。
「何だお前。何しに現れた」
男が最初に口を開く。
何を言うのか。それはこっちの台詞だ。
「おい!下等生物の分際で横柄だぞ」
この鎧……似ている。
叡智さんたちの聖騎士の鎧に。
鎧に施された模様は違うが、基本の造りが似ている。
最初から気になっていた。気配が人と違う。
また神絡みか。
バシュ!
右の頬近くを高速で何かが通り過ぎた。
男の人差し指がこちらに向いている。
きっと指先からエネルギーの光線みたいなのが放たれたのだろう。
「いい加減に何か言え。何も言わねぇなら次は当てるぞ」
だいぶ苛ついている。
そりゃそうよね。この男の言う下等生物に、相手にもされず無視され続けているのだから。
仕方ない。話してあげよう。
「ねぇ。コレあなたがやったのでしょう?何でこんな事するの?何の意味があるの?」
この男が何者かなんて興味ない。
必要な情報は、この破壊活動の目的と、誰の意思で行われたかだ。
「お前に質問する権利なんてないんだよ!俺の質問に答えるのが今のお前のする事なんだよ……んっ?その気配……お前魔族か?こんなところで見るなんて。珍しいな。がはは」
イライラが募っていく。
まだ駄目だ。聞き出さなければいけない事がある。
「俺は天使なんだよ。知っているだろうが天使の前で悪魔は八分の一しか力が出せないんだよ。圧倒的にこっちが有利なんだぜ。もう俺に従うしかないな。そうだな……この場でブチ殺すのもいいが、下界にいる間だけ下僕として使うのもいいな」
勝手に喋ってくれた。聞き出す手間が省けた。
天使は、もう少し知的で思慮深いものだと想像していたけど、私の妄想だったみたいだ。