盾の聖騎士 その2
カラダが軽くなった。
押し潰そうとしていた力から解放され、十分な空気が肺を満たしはじめる。
両腕に力を込め、なんとか上体を起こす。
顔を上げると、目の前の空間に蒼い剣が宙に浮いていた。いや、浮いているというよりも、見えない何かに突き刺さっている様だ。
そんな事よりも、この剣には見覚えのある。
来てくれたんだ!期待していいよね!
剣が飛んできた方を振り返る。
自然と涙が溢れてきた。アイツには、こんな姿見られたくないけどもういいや。
「わああああ!ホークぅ!ホークぅ!」
カラダのダメージを忘れて走り出した。体がついていかず前につんのめり、その場で転倒した。
「フレデリカ。ひどい顔だな。鼻血も出てるぞ」
顔を上げると、見慣れてはいるが、懐かしい顔が私を覗き込んでいる。
「そんなに見んなバカぁ!」
「おお、よくがんばったな」
優しい手で乱れた髪を撫でてくれた。
固まった泥や砂がポロポロと落ちる。
「ごめんなさい。私役立たずで何も出来なかった。大隊長が私のこと逃してくれようとしたけど逃げる事も出来なかった」
「そうか……あの人がフレデリカの事考えてくれたのか。性格的にあまり合わない人だったけど感謝しなきゃな。大隊長が時間かせいでくれなかったら間に合わなかったかもしれない」
表情と口ぶりから、現在の大隊長の状態をわかっているような感じだ。
「さて。とりあえずは現状の良くない状況をなんとかしないとな」
忘れていた。二メートル後ろに敵がいるんだった。
ホークはゆっくりと立ち上がり、宙に浮いている様に見える蒼い剣の柄を握る。
「あら。閃光が言っていた、蒼の剣を使う剣士って、あなたの事なんですね。会えて良かったです。実は、ちょっと確かめたい事があるんですよ」
「どうせ、オレが何者かってことだろう。素性がわかったところで、敵味方の関係は変わらないと思うけど」
「そうでしょうか。私の想像通りなら、貴方とは特別な関係になれると思いますよ。ふふっ」
敵とは思えない優しい笑顔だ。
「そんな事よりも早くその場所から移動した方がいい。オレはこのまま、この『見えない盾』を貫くつもりだ。そのままだとお前の体にも穴があく」
剣を両手で握り直す。
「はあっ!」
そのまま全体重を乗せ、気合いと共に剣を押し込んだ。
バリーン!
見えない何かが砕ける。
血飛沫が上がらないという事は彼女は忠告通り逃げたのだろう。
「逃げてくれて感謝するよ。女性を斬るのはオレの望むところではないからな」
甲冑の女は数メートル上の空中に浮かんでいた。
すごい、魔法って空も飛べるんだ。
「逃げたわけじゃないんですよ。ちょっと助っ人を呼ぼうと思いまして」
右手を空に向け、そのまま光の塊を射出した。
打ち上げ花火の様に真っ直ぐに天に向かって登っていき、雲の中に入って消えた。
あんなに強力な敵の助っ人が務まるやつなんて、絶対に良くない。
「ホーク!」
唯一の味方に支持を仰ぐ。
ホークは集中していて、私の呼びかけが届いてないようだった。
「そんなに睨まないでください。これは信号弾みたいなもので攻撃力は全くないですから。それに、助っ人と言っても。戦闘力だけで言うとあなた達より弱いですから。安心して下さいね。でも彼女、いろいろできて便利なんですよ。そりゃあもう私も重宝して……」
「ちょっとぉ。あたしの事を便利アイテムみたいに言うのやめてよね」
突然、言葉を遮るように頭の真上から声が聞こえた。