はじまり その2
空の皿が塔の様に積み重なる。
少し前までお肉が存在していたお皿だ。
牛のお肉なのだが、脂が赤身に綺麗な模様を描いていた。
この国では霜降りと呼ぶらしい。
このお肉が高級で、一皿が『負けん屋』で販売している魔剣の包丁一本と同じくらいの金額だ。
お会計が恐ろしいが、三人の聖騎士さんに日頃の感謝を込めての大盤振る舞いも悪くないと思う。もちろんタマヨリにも。
「フレデリカぁ。美味しかったよー。ありがとー。人生の目標の一つを達成できたよ」
タマヨリが至福の表情でお腹をポンポン叩いている。
それは女の子としてどうかとは思うよ。
まぁ個室だから誰も見ていないけど。
あらゆる意味でうるさかった盾さんも、満足そうに天を仰いでいる。相変わらず表情は恍惚している。彼女の魂は今どこにあるのやら。パーフェクトボディで完全美女なのに残念な人だよ。いつか体を入れ替える魔法を開発してやろう。
で、そんな盾さんの様子を優しい目で見守っている閃光さん……って!
そんな優しい表情の閃光さん初めて見たよ!
やっぱり、この二人出来上がっている!
ウチの職場でこんな事になっているなんて。
けしからん事態だよ。これは。羨ましい……
叡智さんは、いつも通りのマイペースだ。
『水羊羹』?なるものを黙々と食している。
普通の羊羹とは違うのかしら。
「ねぇ叡智さん。それ私にも一口ちょうだいよー」
「嫌ですよー。フレデリカ様も自分で頼めばいいじゃないですかぁ。ツルンとして美味しいですよコレ。この甘さ。心落ち着きます。和みます。心の汚れが削ぎ落とされていきますぅ」
この子も相変わらず心に汚れ溜め込んでるわね。
「わかったわよ。すみませーん。水羊羹を一つお願いしまーす」
戸を開け、通りかかったお給仕のお姉さんに声をかける。
「はい。かしこまりました。では少々お待ちくださ……」
「フレデリカぁ!」
給仕さんの声を遮り、室内にタマヨリの叫び声が響く。
ドオォォォン‼︎
タマヨリの声とほぼ同じタイミング。
轟音と共に地面が揺れた。
テーブルの上にあった皿が落ち、けたたましい音がなりが響く。鍋もひっくり返り中身が床にぶち撒かれる。部屋全体にお醤油の匂いが充満していく。
叡智さんも警戒態勢に入り、閃光さんは盾さんを庇う様に抱き抱えている。
「フレデリカ!私外の様子見てくる!」
タマヨリが部屋を飛び出していった。
「待って私も行く!叡智さん他のお客さんの事お願い!怪我とかしている人とかいるかも」
「わかりました。フレデリカ様もお気をつけて」
さすが叡智さん。いざという時は落ち着いている。
沈着冷静な聖騎士にあとを任せ、私はタマヨリの後を追い部屋を飛び出した。