はじまり その1
あれ?
何これ?
今まで私がやってきた事とほとんど変わらない……はず。
何か変だ。
想像してたものより数段上だ。
「きゃあああ!」
盾の聖騎士の悲鳴があたりに響く。
「こんな……あたしでも知らない事が。叡智の聖騎士である……あたしが……」
叡智の聖騎士は、目の前で起きている現実を受け入れられないでいた。
「………………」
さすがだ。
閃光さんは一切動じていない。
私も平静を装わなければ。
全力で集中し、何とかポーカーフェイスを保つ。
ガラガラ
突如、部屋にある木製の引き戸が開く。
一人の女性が顔を覗かせる。
「恐れ入りますが、他のお客様のご迷惑になるので少しお話の音量を抑えて頂いてもよろしいでしょうか?ご協力感謝いたします」
ピシャ!
音を立てて戸が閉められる。
あの女の人、目が笑っていなかった。
そりゃそうだ。本日三回目のクレームだ。
「ちょっとフレデリカ!この巨乳の騎士何とかしなさいよ!あなたの騎士でしょ!絶対迷惑だし、何より私が恥ずかしいから!」
タマヨリが『他のお客様の迷惑になる』音量で声をはり上げる。
「タマヨリ。あなたも声大きいから……っていうか盾さん!いくらお肉が美味しいからって悲鳴を上げるの止めなさい!お店の人に怒られちゃうじゃない。次は本当に追い出されるわよ」
「しかし……しかしフレデリカ様。このお肉、柔らかすぎて口に入れた瞬間にとろけてしまいます!私……私こんなお肉初めてです!」
わかる!それはわかる!
私だってほんとうは
『何じゃこりゃー!美味しすぎるー!』
って叫びたい。
「ね、ねぇフレデリカ。あの騎士大丈夫なの?なんか恍惚としているけど。この肉鍋にヤバい何かとか入ってないよね?私はなんともないから問題ないとおもうけど、アレ見てると不安になっちゃうよ」
さすが太陽の巫女。普段から私が思っている事と同じ心配をしている。やはり彼女とは気が合う。
「ごめんねタマヨリ!大丈夫だよ。あの人は普段から大体あんな感じだから。あれでも通常運行だよ。特に美味しいものを食べた時はハイテンションになるんだ。ははは……」
そう。私たちはタマヨリのオススメする高級肉鍋屋さんに来ている。
本来の予定ではタマヨリと二人だったのだが。
私が着替えの為に叡智さんと一緒に屋敷に戻ると、閃光さんと盾さんが居間でお茶をしていた。
盾さんはいいとして、閃光さんがこの時間にいるなんて珍しい。
二人がこんなにリラックスしている光景なんて初めて見る。
特に閃光さん。閃光さんは何時も、何が起きても直ぐに対処できる様に常に気を張っている。
あれ?もしかして……この二人本当に……
とまぁ何はともあれ、奇跡的に四人全員揃ったのだ。
『私一人だけ美味しいご馳走をいただくのは』と後ろめたい気持ちだったけど、これでみんな一緒に食べにいける。
「タマヨリごめん!これじゃあ美味しいご飯も味わかんなくなっちゃうよね」
「もういいわよ。まぁ、これはこれで楽しいから」