近接戦闘 その4
「……というけで、抵抗させないってところが今回のポイントね」
なるほど……そういう技なんだ。
確かに私になら出来るかもしれない。
「それじゃあフレデリカ。軽く殴りにいくから返してみて」
「えっ?ぶっつけ本番?ちょっと待って!イメージするから……」
タマヨリから教えてもらった事を、今一度頭の中で整理する。やる事は理解している。あとは魔法の発動とタイミングが上手く出来るかどうかだ。
「……よし!いいよタマヨリ。なんとかやってみる」
緊張を解くために両手首をブラブラさせる。
タマヨリはその様子を見ながら、腰を落とし両足に力を溜めて攻撃態勢へと移行した。
「じゃあいくよフレデリカ!たぁぁ!」
タマヨリが、十数メートルの距離を一気に詰めてきた。
「やってやる!」
右手に『加速』の魔法を準備する。
さらに、左手には物体を弾き飛ばす『反発』の魔法を。
できた!異なる魔法の同時発現!
タマヨリがおよそ三メートルまで迫る。
右手の『加速』を発動させる。
対象はもちろん……タマヨリだ。
彼女は予想外の加速にバランスを崩す。
自らの制御を失い、タマヨリは私に向かって真っ直ぐに飛び込んでくる。まるで私に吸い寄せられる様に。
この時点で彼女は、『方向転換』や『攻撃の中断』という選択肢を選ぶことはできない。
そして、タマヨリの飛び込んでくる勢いを殺さない様に、彼女の背中に左手を添える。
この刹那のタイミングで『反発』を発動。
ドンッ!
破裂音の様な音を響かせ、タマヨリは上空へと打ち上げられた。
「はぁっ!」
タマヨリは気合いを放出し、空中でブレーキをかける。
「ナイスだよフレデリカ!一発で成功させちゃうなんて流石だね」
いやいや。結構タイミングギリギリだった。
異なる魔法を二つ同時発動する事は前々から練習していたからいい。それよりも『加速』を相手にかけるという行為に違和感ある。
能力向上系の有利に機能する魔法は、相当集中して意識していないと抵抗できないからほぼ発動は成功する。けど、あえて敵のスピードを上げるという行為に躊躇してしまう。躊躇してしまうと動作が遅れ、技の失敗に繋がるのだ。
ちなみに、本気で相手を仕止める時は、二つの魔法を何重にも重ねがけし、吹き飛ばす方向は空ではなく、硬い岩盤などに叩きつけるのが、この技本来の恐ろしさである。
でも、遥か上空に気絶させたまま打ち上げるっていうのも、普通にトドメを刺しにいっている気がするけど……
私の場合は、なるべく最小限の力で自衛の為に使うべき技だ。