盾の聖騎士 その1
すごい。全然見えない。
そういえば、前回の任務で遭遇した、閃光っていう戦士の動きも見えなかった。
あんな性格の大隊長だけど、自力で、あの地位までのし上がったのだ。間違いなく実力者だ。
まぁ、尊敬出来ない事に変わりはないのだけれど。
ぴちゃ……ぴちゃ……
あっ、雨だ。こんなに青空なのに。
ぴちゃ
頬に水滴を感じた。
手の甲で拭う。
「何?」
拭った手が赤く染まっていた。
血だ。
空を見上げる。
人の形をしたものが頭上を飛んでいた。
血の雨を降らせているのはコレだ。
放物線を描き、地面に落ちる。鈍い音が辺りに響いた。
その落ちた場所から大きな赤い水たまりが形成されていく。
「とても強い攻撃だわ。斬撃を反射しただけなのに、あんなに吹き飛ぶなんて。彼、相当な手練れみたい。ここで仕留められてよかった」
再び、あの優しく、穏やかな声が聞こえてきた。
「お待たせしました。次はあなたの番ですよ。あれ?聴こえてますか?どうします?抵抗します?何もしないなら、このまま殺してしまいますよ」
あぁ、今度こそ終わりだ。
結局、私は何も出来ない人間だ。
特別な階級で、まわりに大事に扱われていたから勘違いしていた。所詮ただのタンクなんだ。
最後にホークに会いたかったなぁ。
私が死んだら、ちゃんと悲しんでくれるかな。
「ホーク……」
「あら、ホークさんと言うのは恋人の名前かしら。あそこで、お腹の中身を出して倒れている彼の事でしょうか」
もうどうでもいい。
「早く殺してよ……」
「何かしなくていいのですか?終わりにしてしまいますよ」
少し残念そうな口調で呟くと、両手を私にかざした。
「私は盾の聖騎士。世界のあらゆる全ての害悪から英雄を護し盾となる者」
何か見えないものが頭上からのしかかってきた。
「あぐっ」
どんどん力が強まっていく。
もう立っている事もできない。手足を突っぱねて耐えるのが精一杯だ。
目には見えないが、何か厚い鉄の塊のような物が私を押し潰そうとしているのを体で感じる。
「くっ、なんで……楽に死なせてくれるんじゃなかったの」
少しずつ圧力が上がってきている。これじゃあ、私を少しでも長い時間苦しめてから殺そうとしているみたいだ。しかも、それを楽しんでいるように思える。
「そうなんですよ。本当は一気に圧死させてあげようと思ったのですが、あなたアレですよね?卑怯にも、私たちの攻撃の届かない遠距離から一方的に殺戮を行う。噂の悪魔の人ですよね。楽に死んでしまっては、あなたに殺された人達の魂が浮かばれません。ですから、こうやって体の中心に圧力をかけているんですよ。ここなら押し潰されて体が千切れてしまっても、すぐには死にませんから」
もう四つん這いで耐えるのも困難だ。
このままだと本当に……
「ううっ、息がもう……」
背中から強い力で地面に押し付けられ、呼吸もスムーズにできなくなってきた。
意識がだんだんとうすれて……
ドヒュ!
諦めかけたその時、空気を切り裂く様に体の横を何かが通り過ぎた。