タマヨリ その4
太陽の巫女の頭上に巨大な光の玉が形成されていく。
体で感じる。
あれは凄まじいエネルギーの塊だ。あの塊一つで街一つを滅ぼせるほどのエネルギー。
あたりの空気が変わる。
風が止む。
周辺に満ち満ちていた自然のエネルギーが巨大なエネルギーに打ち消されていく。
「あの光を打ち消す!行くよ!時間延長!」
自分の持っている全てを解放する。
同時に、巫女の持つエネルギーの塊から無数の光が瞬き始めた。
その光がビームとなって、大波のように私の方に迫りくる。
でも大丈夫。半径二十五メートルは私の間合い。
世界の全てが超スローモーションになる。
木々や草が揺れている。
鳥が空で翼を羽ばたく。
全ての動きが止まって見えるほどスローな動作だ。
今の私の感覚は五十倍。
重力加速度で軽く骨が軋む感覚があるがこれくらいは想定内。だが、不快な感じがゆっくりとやってくる。しかもそれが長く続く。感覚が五十倍になっているからだ。
だから、この戦い方にはリスクがある。
負傷した時の激痛も、ゆっくりと長く続く。
本来なら生命に支障のない負傷でも、今の状態だと致命傷になる可能性がある。
でも、そんなものは覚悟の上だ。
「それにしても……このエネルギーのビームヤバいわね」
あの『千撃の光』って技。この状態でも、人が全力疾走するよりも速い速度で迫ってくる。
という事は。通常の体感だと音速に近いスピードがあるということになる。
普通に考えると回避不能な攻撃だ。
でも、今の私なら。
腰にある魔剣を抜く。
右手に蒼の剣。左手に魔剣。
二本の剣に魔力を纏わす。
光の帯はもう目の前だ。
勢いよく体を回転させる。
回転の勢いに任せて両手の剣で空間を薙ぎ払った。
剣に触れた光の帯が爆散した。
「三つ撃破!これならやれる!」
地を蹴り空へと昇り、目の前に迫るエネルギー弾をかわす。
「へぇ。そう来るのね」
避けたはずのエネルギー弾が方向を変えて追ってきた。
自動追尾だ。
九個……十一個。
「スプレッド!」
蒼の剣の切先から魔力エネルギーで弾幕を張る。
近い位置で爆発が起こる。
「熱っ……」
皮膚が焼けた感覚がなくならない。
これも時間感覚を延ばした影響。
解除したいけど出来ない。
それをしたら、たぶん死ぬ……
「!」
一発スプレッドの弾幕を抜けてきた。
「もうっ!」
左手の剣で薙ぎ払う。
ドガァン!
左手が焼ける。
この光のエネルギー弾。触れると爆発して高熱を発するらしい。
八個のエネルギー弾が迫る。
まずい……距離をとらないと。近距離で処理するのは危険だ。
領域内の端に瞬間移動する。
「はぁはぁ……くっ!この痛み……死んじゃう。あぁ!くうっ!まったく……生きたまま焼かれるって……こういうこと……あぅぅ!」
油断したわけじゃないけど、想像以上に厄介な相手だ。
体感時間延長の『痛みがゆっくり来る』を身をもって理解した。
体感二十秒ほどで、やっと両腕の焼かれた痛みが消えてきた。火傷のダメージだけが残る。
やっぱり守るだけで何とかなる相手じゃない。
タマヨリが私の位置を見つけたらしい。
動きを止めたエネルギー弾が一斉に動きだす。間違いなくこちらに向かっている。その数……三百。
「もう!やってやるわよ!太陽の巫女め。引っ捕まえて地獄の苦しみを味合わせてやる。くすぐりの刑で笑い死ぬがいい」