タマヨリ その2
太陽の巫女タマヨリの頭上に十二枚の白い紙が舞っている。
十二枚の紙は、太陽の光を浴びると白く発光し始めた。
その光は徐々に何かの形を形作っていく。
四本の足に尻尾。全身の毛が風になびく。
巫女であるタマヨリを守る様に鎮座する。
「犬⁉︎」
「あら。初めて目にしますか?おしいですね。確かに犬に似ていますが違いますよ。彼らは狼という神聖なる獣です。貴方みたいな邪悪なる者を滅ぼす獣たちです」
狼?
あの鋭い牙は獲物を狩る為の武器に違いない。
……なるほど。今の獲物は私というわけね。
あの獣は彼女が紙から作り出したもの。斬ってしまっても問題ないということだ。
ならば遠慮はいらない。
十二匹は全て私の領域内だ。
これなら容易い。
全ての獣をロックする。
イメージで……十二体の獣を一本の線で繋げていく。
「邪悪なる者よ。何を企んでいるのですか?何をしても無駄です。この子たちは獲物に喰らいつくまで追うのをやめません。逃げ切るのは不可能です。さぁ。この子たちの牙を凌いでごらんなさい」
タマヨリが振り上げた腕を振り下ろす。
それを合図に獣たちが一斉に駆け出した。
獣は私を包囲するように散開する。
数は多い。
だが全ての獣は既に掌握済みだ。
手のひらを正面に向け意識を集中する。
(一緒に戦うの久しぶりだね)
心の中でパートナーに話しかける。
一緒に空の散歩したり魚を獲ったりする時に手伝ってもらう事は日常だったけど、肩を並べて戦うのは久しぶりだ。
(倒すべき目標には目印を付けておいたよ。あとはあなたに任せるね)
手をかざした空間から蒼く美しい剣が現れる。
「お願い!蒼の剣!」
私の発した声と共に彼は飛び出す。流星の様に青い尻尾を引きながら。
私が引いた線を辿り、目標の点を貫いていく。
ザシュ!
獣の脇腹に一瞬で穴が空く。
獣達が残留魔力の青い帯で繋がっていく。
「これで!」
残影魔力のラインに沿って、火炎の魔法を流す。
風穴が空いた獣達を火炎の濁流が飲み込んでいく。
獣は元の紙へと戻り、そのまま焼かれて消滅する。
蒼き剣は透き通る青く美しい軌跡を描きながら、私の背中に戻ってくる。寄り添う様に。
この子も私の事を大切な家族だと想ってくれている。
あとは彼女を何とか説得するだけだ。
「ねぇ。もういいでしょ?もうこの国を去るから。もう二度とこの国には足を踏み入れないから」
世界からまた一つ、私の居場所が減っていく。
この先、私が居ても許される場所は見つかるのだろうか。
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