ショーナン国 その3
左右に商店が隙間なく並んでいる。
野菜屋さんの隣に武器屋さんがあったりと法則性はなく、どのお店もお隣さんと上手く付き合っているようだ。
まるでお祭りの屋台の様に賑やかで華やかに見える。
商店街を抜けると、大きく開けた場所にたどり着いた。
石畳みの広場が広がっていて、それを囲むように人だかりができていた。
「何やってるのかな?閃光さんわかる?」
この街の事なら閃光さんに聞くのが間違いない。
「はっ。あれは力試しの大会です。先ほどお話ししましたが、この国の者は皆、戦闘民族と言えるほど戦闘力が高いのです。しかし争いがなくなった今、力を発揮する場所がなくなりました。ですので、『力を試す大会』が各所で行われているわけです」
なるほど。
閃光さんの話だと、みんな相当強いらしいし。少しだけ見ていこうかな。
「叡智さん。ちょっとだけ観ていっていいかな?」
司会者らしき男がルールを説明している。
「本日のルールは、勝ち抜き形式になります。素手での格闘対決のみで、武器の使用、相手に対しての魔法は禁止です。この二十メートル四方の石畳みリングから外に体の一部が触れたらリングアウトで負けとなるので注意してください。あと、飛び入り参戦歓迎でーす。では最初の試合を……」
第一試合。
いや、無理でしょコレ。
お婆ちゃんだよ。武闘着を身に付けているから、何かの武術の使い手だという事はわかるけど。そして仮に、その武術の達人だったとしよう。
でも対戦相手はあの男だよ。
鍛え抜かれた筋肉。二メートルはある巨体。プロフィールによると、ショーグン直下護衛隊の一つ、四番隊の隊長らしい。
そして体格差から、パワーもリーチも圧倒的に有利。
「閃光さん!あのお婆ちゃん死んじゃうよ!何とかしてあげて!」
「大丈夫ですよフレデリカ様。あの御老人は名の知れた柔術家です」
「そ、そうなの?柔術ってのがよくわからないけど、大丈夫ならいいの」
そうしている間に試合開始の合図が入る。
「はじめ!」
合図と同時に巨体が動く。
武舞台を縦横無尽に駆ける。
「い、いや……嘘でしょ。あれはどう見てもパワータイプでしょ?目で追えない……」
私が勝手に決めつけていた事だけど、あの隊長の男は見た目からスピードで掻き回せばやり込めると思っていた。
しかし目の前で繰り広げられている展開。
少なくとも素の私より早い。
柔術家のお婆ちゃんも一歩も動けないでいる。
ドォォン!
背後で何かを爆破したみたいな爆音が響き渡った。
「えっ?」
音がした方を振り返る。
土埃が上がっていた。
まわりの観衆達の視線も、その土煙に集まる。
皆が、土煙の中に何があるかと目を凝らす。
煙が晴れて、何か人らしきものが見えてきた。
信じられない光景だった。
今の今まで、武舞台で高速で駆け回っていた男が、遥か後方の土壁にめり込んで気を失っている。
舞台に視線を戻す。
そこには何事もなかったかの様にお婆ちゃんが立っていた。
ただ、先程と一つだけ違っていた。
戦士の目になっている。
「それじゃあ殺あおうかのぉ。そこのお嬢さん。はよ舞台に上がりんさい」