隠された想い……二つ その1
「はいニーサちゃん。紅茶どうぞ」
ベッドのサイドテーブルに紅茶を二つ。
「ありがとうごさいます」
いつもの笑顔だ。可愛いだけじゃない。彼女の微笑みは周りにいる人達を和ます。
ベッドのふちに腰掛け、ティーカップの持つ手に指をかける。
彼女、猫舌なのかな。
あたたかい飲み物を飲む時は、概ね『フーフー』している姿を見る。
そんな『フーフー』しているニーサちゃんも可愛い。
それにならって私もティーカップの紅茶を冷ます為に息を吹きかける。
緊張する。
同じ緊張でも、昨日とは別物の緊張感だ。
今日は、私の気持ち次第で結果が左右される。
ニーサちゃんは自分の気持ちを素直に伝えてくれた。
今度は私が答えないと。
自分の分の紅茶を一口。
あたたかい紅茶は気持ちが落ち着く。
さっきまで騒ついていた心が静かになっていく。
これなら大丈夫だ。
間違った選択はしなくて済む。
もう迷わない。私の答えは決まっているのだから。
「ねぇニーサちゃん」
美しい金髪を優しく撫でる。
サラサラの髪が気持ちいい。
「はい。なんですか?フレデリカさん」
こんなに可愛らしくて、明るくて真っ直ぐな少女でも心に深すぎる傷を持つ。私がつけた傷だ。彼女もその事をわかっている。
彼女の父親は私が殺した。しかも彼女の目の前で。
そんな残酷で非道な行いをした私なんかを彼女は好きだと言ってくれた。
そんな資格は私にはないのに。
「ニーサちゃんは、どうして私なんかを好きになってくれたの?あなたにとって私は憎むべき敵であるはずなのに」
初めて口にした。今まで怖くて聞けなかった事だ。
私は間違いなく、彼女の両親を殺した犯人だ。
彼女の話す虐殺犯の特徴が私と一致している。
それなのに……
「わたしはフレデリカさんの過去を知らないけど、師匠と初めて会った時に、流していた涙でわかったんです。あぁ、この人もわたしと同じキズを心に持っているんだなって。それからお父さんの敵ってことになって敵対してしまったけど、私が挫けそうになった時も、手を握って励ましてくれたり。他にもいろいろな事があるんです。だから大好きなんです」
もぉ……この子は。
本当に愛おしく感じる。
私の事を想ってくれている気持ちが伝わってくる。
この子と、ずっと一緒に生きていきたい。そう思う。
でも、私は気付いてしまっている。
「ありがと。私もニーサちゃんのこと大好き。でもね、ニーサちゃん。あなた気になる男の人とかいない?なんか前々から、そういう人がいるんじゃないかなって思っていたんだよね」
「ち、違います!あの人は私なんか子供みたいに思っているだけだし!それに……!」
彼女は気付く。自分の言葉が『それ』を認めてしまっている事に。
「ほんとうに違うんです!わたしが好きなのはフレデリカさんだけで……だから!」
私は彼女を、優しく力いっぱいギュっと抱きしめた。