大円団? その2
ファーストキス?そんなの私貰っていない。
必死に記憶を掘り返えしてみるけど、そんな雰囲気になった記憶なんてない。
冷静になれ。昨日からの記憶を最初から掘り起こせ。
ニーサちゃんとベッドでお話して。
例の本を使って解説して。
途中、ニーサちゃんの頭がパンクしちゃったけど、最終的に和やかな雰囲気で眠りについたはず。
あれ?
何?この柔らかい感触の記憶……
軽く唇を吸われる様な感覚の記憶……
なんか唇をマッサージされたみたいなのが体に感覚として残っている。
あれは確か……
「あぁぁぁ‼︎」
寝起きで微睡のなか『おはようのキス』という行為が行われた記憶がよみがえる。
「ニーサちゃん!アレっていたずらだって言ってたじゃない!それに触れ合ったのだって、ほんの一瞬で……」
あれ?あれ?なんかあの時の感触……断続的だった。何秒くらいの時間だったのだろう。五秒くらい?
「一瞬じゃなかったですよ。うーん……二分くらいだったかな」
みんなの視線が、鋭利な刃物の様に私に刺さる。
その視線から、何を言おうとしているのかもわかる。
「みんな違うよ!私そんな事!確かにキスはしたけど、そんなんじゃないから」
「フレデリカ。お前……ほんとにしたのか」
私の事を一番わかってくれていると思っている人から疑心の目で見られている。
「ち、違うわよ!ホークは私のこと信じてくれないのー⁉︎」
「いや。もしかして欲求不満……」
「それも違うわよ!ばかぁ!」
無理だ。何言っても無理な空気になっている。
「もう!ちょっとニーサちゃん。こっち来て」
腕を掴み、引きずる様に外へ連れ出す。
「ニーサちゃん!どういうこと?なんか私、変態みたいな目で見られてるん……わあああ!ちょっとニーサちゃん。ごめん泣かないで」
綺麗な瞳からボロボロと大粒の涙が頬から地面へと落ちていく。
「酷いですよぉ。フレデリカさんは私の事嫌いですか?わたしはフレデリカさんの事大好きです。大大大大好きです!愛してます!」
えっ?ほんとに?ちょっと待って。
私だってニーサちゃんのこと大好きだし、可愛いなぁって思っていたけど、そういう好きって……
ヤバい。久しぶりにパニックだ。
どうしよどうしよ。
「に、ニーサちゃん?私たち女の子じゃない?女の子同士じゃ結婚もできないし、そのなんて言うの?無理じゃないかな。社会的にも」
しゃがみ込んでしまった少女に目線を合わせる。
とにかく今の事態を何とかしないと。
でも、ニーサちゃんの事も傷付けたくないし。
「駄目ですか?女の子同士じゃ愛し合っちゃいけないんですか?わたしの事、いつも可愛いって言ってくれるじゃないですか。昨夜わたしにいろいろ教えてくれて。それで確信したんです。フレデリカさんと、そういうふうになりたいって」
やっぱり、昨夜の勉強会がトリガーになったっぽい。
マズイなぁ。笑って済ませられなくなっちゃった。
これって真面目に向き合わないと駄目なやつだ。
「ねぇ、ニーサちゃん。今夜も二人でお話しない?今のニーサちゃんの気持ちとか他にもいろいろ話しよ。その結果がどうなるかわからないけど、あなたの気持ちを蔑ろとかにはしないから。私も真面目に考えるから。ねっ」
「グスっ……いいんですか?変なこと言ったのに、わたしの事嫌いにならないんですか?」
この子の気持ちは真剣だ。
あぁ……こんな世界中から嫌われている私でも好きになってくれる人がいるんだ。嬉しい。嬉しくて私まで泣いちゃいそうだ。
「嫌いになんてならないよ。ニーサちゃんの気持ち、とっても嬉しいよ。ありがと」
これは本心からの言葉だ。
「それじゃあ戻ろうか?もう一泊お泊まりだから準備お願いね。みんなには私から話すから」