フェリックス・ミューラー その2
満天の星空が広がっていた。
広がっているといっても、外を映すモニターごしではあるが。それでも心奪われる美しい星空だ。
前に乗っていた車両に搭載されていたモニターより、解像度や画面の映りが良くなっている。それが余計に星空を綺麗に見せる。
ほんとうは外に出て夜空を仰ぎたいのだが作戦中だ。
それにしても……もう十時間ほど会話がない。そろそろ息が詰まってきた。
いつもはホークが使っているシートには、フェリックス・ミューラー大隊長が待機している。
フェリックス・ミューラー大隊長。
北アクアでは陸上専用装備を所有している十二個の部隊が存在する。主に戦車と歩兵で構成されているのだが、その小隊を束ねるのがフェリックス・ミューラーである。
歳は……たぶん三十は越えていると思うけど、詳細は分からない。
昔はモテていたのであろう整った造形の顔だか、現在は堅苦しすぎて、付き合いづらいおじさんって感じだ。ホークも将来こんな感じになってしまうのだろか。それは嫌だ……
機械式魔法戦車の操縦技術はホークの次くらいの腕で、軍の中ではかなり有名人だ。
「んっ?……フレデリカ・クラーク聖特級タンク。左後方に複数の灯が見えるのだが、あれが何かわかるか?君は何度かこの辺りで任務をこなしていると聞く」
「えっ?……あっ、はい。あれは町の灯りですね。商業がとても発展していて、町は夜も賑わっている町です。実は一度だけ、水と食料の調達で潜入した事あるんですよ、ふふっ」
懐かしいなぁ。不謹慎だとは思うのだけれど、あの時はホークと二人ではしゃいでしまった記憶がある。
キャンディーが入っているアイスクリームが売っていたんだけど、初めて見る珍しさで、どうしても食べたくなってしまったんだ。
無理を承知でホークにおねだりしてみたら、あっさりと許可してくれて。二人で食べながら町を散策したんだっけ。
途中、迷子の女の子がいて、お母さんを探してあげたりしたなぁ。髪に真っ赤なリボンの子で可愛かったな。私にも子供ができたら真似したいなぁとか思ったりして。
「……これだけの規模の町なら相当な数の人間がいるだろう……これは処理しといた方が良さそうだな……」
えっ?今何て?
「砲撃準備。七時に回頭」
頭の上で砲身が回転する音が聞こえる。この人は本気で町を撃つ気だ。
「ちょっと待ってください!この攻撃は今回の作戦にはないはずです!」
「大丈夫だ。次の作戦行動まで二時間ある。任務遂行に支障はない」
「そうではありません!あの町に軍事施設はありません。いるのは一般の人達だけです。攻撃する必要はないかと思います!」
「何を甘い事を言っている。敵は子供も含めて全員が魔術という戦闘力を持っているんだぞ。時間がたてば、いづれ我らの敵となりうるのだ。脅威となる前に潰しておかなければならないだろう」
がしゃん。
動いていた砲身が止まった。モニターには後方
にある町が映し出されている。
「待って下さい!司令に一度連絡して……」
ヴァーン!
一瞬の脱力感と共にモニターの映像が真っ白になる。
あぁ……止める間もなく撃たれてしまった。
炎と爆発が、町を赤々と包んでいた。